「福利厚生問題・給与制度の見直し」問題にかかる協議についての市労組連の見解
「大阪市問題」は、財界・政府による
  国民生活と権利への全面攻撃の「号砲」
大阪市役所を本当に改革するチャンスにするために

2005年7月
大 阪 市 役 所 労 働 組 合
副執行委員長 中山 直和


「カラ残業」の告発番組からはじまった「大阪市問題」

 昨年9月に大阪市役所労働組合(以後市労組)は、憲法・地方自治を生かし、希望ある21世紀をめざす市労組運動の目標と提言として「こんな大阪市と日本をつくりたい」(構想案)を発表しました。(市労組第29回定期大会)
 これまでの無駄な大規模開発や不公正な同和行政によって大きく歪められた大阪市政を改革し、住んで良かったと言える大阪市につくりかえたいという熱い想いを込めた提案でした。
 しかし、この議論を職場内外で大いにすすめようという矢先、「勤労感謝の日」のテレビ報道番組(MBS放送VOICE)で、阿倍野区役所と福島区役所の「カラ残業」問題が報じられたのを機に状況は一変しました。12月に入り「ヤミ年金・退職金」問題が朝日新聞の一面にスクープされ、以後、連日の新聞・テレビ・ラジオ報道は加熱し、「職員の厚遇な福利」「労使癒着のヤミ体質」に対する市民からの大きな批判が沸き起こりました。
 市労組のホームページには、この半年あまりの間に4万5000件ものアクセスがあり、連合系の「市労連」と間違っての抗議メールが多数寄せられました。とりわけ、「市労連」の団体交渉や裁判所への仮処分申請などがマスコミで報道されるたびに、直ぐに怒りのメールが増えるというありさまでした。中には、北海道の自治労加盟の単組役員から「自治労を辞めろ!」という「怒りのメール」まで送られてくる始末です。また、市民の反応は、これまでの第3セクター赤字の穴埋めに何十億・何百億とムダ使いをしたことに対する反応と比べてもすさまじいものがあります。「職員の厚遇問題」は生活感覚で認識できるものだったからです。
 さて、この半年の経過を振り返って明確に言えることは、「大阪市問題」の背景には、後で述べるように財界と小泉自公政権による公務員労働者への「総額人件費削減」攻撃、さらに憲法改悪を睨んだ自治体労働者の活動を縛る地公法の改悪問題が周到にリンクしていたということです。
 私は、この点で、大きく立ち遅れを感じています。
 それは、「大阪市問題」は基本的に大阪市での多数組合である「自治労」と市当局との歴史的な癒着問題であり、その産物が批判されているんだという、言わば「対岸の火」としての認識が私たちの中で拭いきれなかったことです。財界・自公政権にとってみれば、「大阪市問題」はきっかけ・口実であっても中心問題ではなかったということ、攻撃の矛先は国民生活への全面攻撃を前にすべての自治体労働者の生活と権利を抑圧することであり、たたかう自治体労働組合への攻撃であったということを肝に銘じて反撃に転じなければならないと痛切に感じています。

大阪市都市経営諮問会議で「労働組合」「既得権益」問題を議論

 勤労感謝の日のマスコミ報道も周到に準備されてきていましたが、大阪市自身の動きもそうでした。
 大阪市都市経営諮問会議はその半年前の昨年6月に設置され、今年に入って関市長・大平助役と対立が表面化した本間正明阪大教授が座長に就任します。諮問会議では、本間氏から「官から民へ」という文書が出されるなど、NPM行革の手法を全面的に取り入れる議論がされ、それに沿った「関市長への提言」が12月20日に提出されました。提言の「都市・人の活性化」の項では、「行政主導で行ってきた福祉施策が市民の自律意識を低下させ、さらなる都市・人の活力の喪失につながるという悪循環をもたらした」と述べるなど、福祉切り捨ての理念があからさまに述べられています。
 諮問会議は、月1回程度開催されていましたが、7月23日の第2回諮問会議では「既得権益の問題」「労働組合との関係」が議論され、議事録には「改革をするには味方がいる。市民を味方にしなければ動かない。情報公開を思い切って進めていかなければならない」との議論が記述されています。さらに、11月30日の第6回諮問会議で報告された「行政能力の回復タスクフォース中間報告」には、「 給与・福利厚生についての見直し」について「マスコミ等で不適切な手当支給が報道されるなど、これまでも一部の職員に対する福利厚生面での支出が問題となってきた。そうした状況のなかで、大阪市の厳しい財政状況を強く市民に訴えたとしても、まずは給与や福利厚生についての見直しを十分に進めなければ、財政再建に真剣に取り組もうという意思が市民には伝わらず、むしろ市民の不信感をあおる懸念もある。市民の感情に十分に対応できるよう、給与や福利厚生事業への支出などについて直ちに改善・見直しを行うことが必要である。」とされ、その後のマスコミ報道の過熱と諸手当・福利厚生事業の切捨て方針を予感させる本音が見事に語られていました。

日本経団連奥田会長や武部自民党幹事長が「大阪市問題」に関連した重大発言

 今年に入り、奥田日本経団連会長は記者会見(1月24日)で次の発言を行います。「今後、社会保障関連の歳出増大が見込まれる中で、他の歳出の削減を進めようとするならば、国および地方公務員の総人件費削減に手をつけなければならない。特に地方公務員の数や給与の問題について、日本経団連でもこの1年、検討していきたい」(経団連ホームページより)
 続いて、1月28日には、全国知事会の梶原会長(岐阜県知事)が「地方分権推進連盟」での講演で「一部の自治体でヤミ給与が問題になっているが、労組癒着、大衆迎合、リーダーシップの不在の自治体も自ら改革が必要だ」と述べています。(自治日報より)
 さらに、自民党の武部幹事長は2月28日の記者会見で「世間の常識を超えた労使の馴れ合いの実態である。報道された以外にも、様々な情報が寄せられている。……地方公務員法の改正や地方公営企業法の職員に関する政治的行為、選挙運動に対する法的整備を考えていく」と述べるに至ります。
 これらの発言は、「大阪市問題」が単に全国版になったというにとどまらず、消費税増税の露払いとして地方公務員の賃金・勤務条件を全面的に改悪すること、さらに、憲法改悪の地ならしのために自治体労働者の政治活動に対して国家公務員並みの刑事罰を持ち込むことが露骨に示されたものといえます。昨年、社会保険庁職員が長期間の尾行・盗撮の上で、1967年の「北海道・猿払事件」以来の国公法違反で告発されたことと連動した重大な動きといえるでしょう。

大阪市の「厚遇な福利厚生」とは、なにが問題になっているのか? 

 大阪市の「厚遇」問題としてマスコミに連日報道されていたものは、@超過勤務実態のない職員に残業手当を支給していたという「カラ残業」問題、A団体生命共済、確定給付型年金、制服の貸与、互助組合、健康保険組合など、職員の福利厚生活動に対する市当局の拠出金が社会の一般的な負担割合を超えているとする「厚遇」問題、B条例・規則にも支給根拠はあるが国から指摘を受けている特殊勤務手当・管理職手当問題などに大別できます。マスコミの報道ではそれらが、いわば味噌も糞も一緒になった議論がされています。それらの問題点について以下紹介します。
 まずは、「カラ残業」です。これは、「大阪市問題」のきっかけになり、職員を「犯罪者集団」とのレッテル貼りの根拠とされ、その後の「厚遇」批判に最大限利用されている問題です。
 しかし問題の本質は、住民サービスの第一線職場を軽視し、「使用者としての責務である労働時間管理」を完全に放棄した市当局による労働基準法違反事件なのです。
 3月30日には、市当局の調査結果にもとづいた「6,331人」の大量の処分が発表されました。これに対し、処分を最も多く受けた区役所職場からは大きな怒りが巻き起こっています。その怒りとは「責任を取るべき市長や市幹部がなんら反省の意を示さず、現場の職員にのみ責任を取らせ、個々の非行を戒める」という処分の方針に対してです。しかし、読者のみなさんは、処分を受けた職員がなぜ「怒る」のか理解が出来ないでしょう。
 理由はこうです。大阪市にはタイムカードがありません。また、区役所当局は、職員の労働時間の把握を全く行ってきませんでした。同時に、職員は自ら超過勤務時間を申告する権利を基本的に奪われてきました。区役所では、各課・係に細分して配分された予算をその範囲内で計画的に執行するため、1人の担当者が個々人の超勤実態とは無関係に一括して命令簿に記入し、その後本人が捺印するという習慣が長年続いてきました。その効果は絶大で、区役所の超過勤務手当の年間執行額は、予算額を毎年下回るという結果に繋がります(別表1・2)。
 どの区役所職場でも民生・福祉部門を中心にサービス残業の蔓延が問題になっています。生活保護世帯の急増でも人を入れず社会福祉法の規定を完全に無視し、大阪市ではケースワーカーが420人も不足していることが、読売新聞の報道でも告発されています。(3月31日付夕刊)また、係長に昇任した人の元の職場は一年間その欠員が補充されないという前代未聞のルールもあります。そのしわ寄せによって、メンタルでの休職者は急増の状況です。そんな中で、サービス残業があっても全く放置するこのシステムは、予算管理をする側にとればまさに優等生であり、問題のある実務処理の実態を認識しながらなんら是正指導をしてこなかった市・局幹部の管理責任が本来問われるべきなのです。
 また、前述の「調査」は、この事実を隠蔽することを目的に行われ、実際の勤務実態が反映していない超過勤務命令簿と退庁簿の突合せを基本に行い、処分者を多数生み出すための作業、言わば「犯罪者」を市民の前に突き出す作業を行ったというのが本質です。
 このような本質を徹底して明らかにしていくことが、私たちに課せられた責務となっています。
 次に、「厚遇な福利厚生」問題です。条例の根拠が乏しい、いわゆる「ヤミ」の制度の多くは、市当局と市労連(連合系)との間で、過去に支給されていた一時金のプラスアルファーなどを「転換」するという労使合意によるものです。
 しかし、大阪市では「厚遇」への批判を逆手にとり、職員互助組合の負担割合について1対1なら当然との定説を踏み破り、一気に当局負担を「ゼロ」にすることを強行しました。「1対0が当り前だ」とした上で、これまでの財産の切り売りなどまったく好き勝手な主張を押し付けようとしています。
 自治体労働者の労働基本権制約と関連した規定として、地公法42条では健康増進、元気回復などの「福利厚生事業」を当局が責任を持って実施することが規定されています。また、雇用保険の適用除外となっていることをカバーする適正な制度が退職時の給付として必要です。このことすら否定する議論が横行し、大阪市以外の自治体の福利厚生事業が攻撃の対象に広げられています。冷静な議論と研究が緊急の課題だと痛感しています。

「ヤミ専従」批判から、労働組合活動への全面的攻撃に

 最後に時間内組合活動が、いわゆる「ヤミ専従」批判として政治問題化している現状について触れます。
 大阪市では昭和41年にいわゆる「ながら条例」が制定されていましたが、細部にわたる規定は整備されないまま今日にいたっていました。それは、この40年間、助役出身の市長候補を労使一体で当選させるため「市役所ぐるみ選挙」を展開し、その手足に労働組合・組合員を使ってきたこと、その見返りとして無原則に専従役員が黙認されてきたのです。この責任は市当局自身にあります。さらに、「連合」労組は特定の政党や候補者を労働組合が推薦し、組合員を時間内外で動員してきたという労働組合自身の問題があります。いずれも思想信条の自由を侵害するという憲法違反の行為であり、それぞれの責任を明確にしたうえで改めるべきことです。
 しかし、そのような当局責任の明確化を一切行わず、「本年1月から4月までの実態調査」とその結果にもとづく「129人」の「問題ある組合専従」を発表しました。一方「連合・市労連」は当局発表の直後に「反省」と「賃金の自主返納」を表明し問題の終息をめざしています。しかし、自民党市議団はこの結果を不充分として引きつづき政治問題化する構えをとっており、地方公務員の政治活動への刑事罰の導入問題とからめ予断を許さない事態がつづきます。

市民とともに真の大阪市改革をめざすとりくみをすすめます

 市労組は、加盟する大阪市労働組合総連合(市労組連)とともに大阪市との交渉を行ってきました。その内容は市労組や大阪市役所のホームページに掲載されていますが、市当局と「市労連」との労使癒着を批判し、關市長や「改革本部」によるトップダウンにも厳しく注文をつけてきました。いずれもが大阪市改革の内なる主体である職場の労働者を信頼せず、誇りを傷つけるという根本的な問題点を持っています。また、「連合」労組のこの間の対応は、市民の反感を買い、財界・政府の全面的な攻撃に絶好の口実を与えるとともに、すべての課題で、市当局の思惑(幹部職員は責任を取らず、現場の職員に責任を転嫁する)に同調する迷走状態に陥っています。
 その中で、大阪市の労使関係は、劇的な変化を遂げ、年度を越えた新たな闘いに突入しています。市労組が、職場の労働者の良心を結集し、要求・意見をしっかり受け止めて闘うことこそ求められており、我々の真価の発揮のしどころであり、正念場を迎えています。
 「大阪市政改革本部」によるトップダウンの「市役所改革」は、NPM行革を強行する体制を強めています。その外部委員のメンバーには、JR西日本の幹部職員が幾人も入っていましたが、尼崎の脱線大事故の後、それぞれ辞任しています。もし、事故がなかったら、JRの効率化優先で利益を上げてきた実績を大いに宣伝し大阪市に取り入れるよう圧力を加えたことでしょう。私たちにとって、人命を犠牲にする安全軽視・利益優先のJRを反面教師にしたたたかいが必要になっています。
 私たちは、大阪市が行う施策の意思決定過程も明確にする徹底した情報公開を要求します。
 また、職員の「厚遇」批判の報道以後、マスコミも全く取り上げなくなった、財政赤字の根本の原因である第3セクターや大規模開発破綻への市税投入を止めさせること、そして、同和行政=人権行政の歪みただすたたかいを、市民とともに大阪市改革するための運動に参加していくことを表明しています。
 5月23日には大阪市をよくする会が市民版の大阪市改革委員会を立ち上げようと呼びかけシンポジュームを開催しました。これらのとりくみも含め、報告・発言を求められればどこにでも参加することを表明してとりくんでいます。
 「住んでよかった・住み続けたい街大阪」にしていくため、職場の中に、市民の中に積極的に飛び込んで全力をあげて真の大阪市改革の実現にとりくむ決意です。

(別表1)超過勤務手当の予算額と執行額について  額の単位(千円) 

区役所

大阪市全体

平成13年度

予算額

1,316,873

9,740,710

決算額

1,201,603

11,399,415

執行率

91.2%

117.0%

平成14年度

予算額

1,207,374

8,879,343

決算額

1,158,161

10,825,205

執行率

95.9%

121.9%

平成15年度

予算額

1,122,777

7,991,413

決算額

1,041,652

10,066,350

執行率

92.8%

126.0%


(別表2)(平成15年度)大阪市各局別の超過勤務手当予算額・執行額 単位(千円)

 

予算額

決算額

予算-決算

執行率

区 役 所

1,122,777

1,041,652

81,125

93%

都市環境局

443,848

1,033,819

589,971

233%

ゆとりとみどり振興局

176,779

381,945

205,166

216%

財 政 局

90,916

169,138

78,222

186%

南港市場

13,451

23,253

9,802

173%

総 務 局

138,136

224,329

86,193

162%

計画調整局

38,813

62,131

23,318

160%

収入役室

10,825

16,622

5,797

154%

建 設 局

388,398

594,262

205,864

153%

健康福祉局

1,113,948

1,597,561

483,613

143%

市 民 局

61,310

82,193

20,883

134%

校   園

294,760

384,619

89,859

130%

市 長 室

47,307

61,091

13,784

129%

消 防 局

1,355,710

1,746,639

390,929

129%

市立大学

84,888

106,757

21,869

126%

教育委員会

246,956

308,926

61,970

125%

住 宅 局

139,665

145,833

6,168

104%

大阪市合計

7,991,413

10,066,350

2,074,937

126%

100%未満の局は除く)
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