2005年度大阪市予算の特徴について
2005年度大阪市予算の特徴について(談話)

2005年3月29日
大阪市役所労働組合
書記次長 齋藤彰英


  大阪市は2月22日に2005年度予算案を発表しました。昨年6月に都市経営諮問会議が発足し、『關市長への提言』(12月20日)では「選択と集中」の名で「福祉施策が市民の自律意識を低下させ、さらなる都市・人の活力の喪失につながる」といった露骨な社会的弱者への支援切り捨て、経済・大企業優遇を提言しました。その提言を關市長が有意義と受け止めていることが新年度予算にも反映しています。さらに職員の「カラ超勤」「厚遇な福利厚生」が連日にわたり報道されているもとで、福利厚生事業の削減が特別に注目されるもとで編成されました。その内容は、都市再生や企業誘致には重点的に予算を配分する一方、市民生活の福祉は切り捨てる市民には冷たいものとなっており、専門家からも「社会的ニーズに沿った選択と集中になったのか、疑問が残る」(立命館大学・森助教授、日本経済新聞2月23日付)と指摘されています。
 
4年連続の緊縮型予算でも借金は過去最高

 一般会計は1兆7285億円で、前年度より△292億円(△1.7%)の減となり、4年連続の緊縮型となっています。逆に特別会計は1047億円(4.1%)の増加となっており、予算総額は前年度より754億円(1.7%)多い4兆4074億円となっています。
 歳入では、市税が171億円増を見込んでいます。法人市民税が210億円(19.4%)の大幅増ですが、個人市民税は△19億円(△1.8%)のマイナスです。企業利益が伸びても家計の収入が減る逆相関が強まっています。固定資産税は家屋で54億円(4.4%)増加していますが、土地△48億円(△4.2%)、償却資産△9億円(△2.2%)の減少で、対前年度△4億円(0.2%)の微減となっています。
 国の財政赤字を地方自治体に押し付ける三位一体改革の影響について、当局は04年度・05年度で国庫補助負担金△91億円の減に対して、所得譲与税の配分91億円、地方交付税の改革で05年度の一般財源が△29億円の減に過ぎず、前年度ほぼ横ばいと意図的に影響額を少なく説明しています。しかし、地方交付税改革の影響について04年度・05年度の2年間でみると、△276億円の減となり、その影響は決して少なくありません。
 毎年増加を続けていた新たな起債による収入は△61億円(△3.0)の減少に転じましたが、市債残高は過去最高の5兆6193億円、市民1人あたり214万円に達しています。

職員の福利厚生の削減など経常的経費が初めて減少

 性質別歳出では、経常的経費(人件費・扶助費・公債費・物件費)が現行制度(1964年度)のもとで初めて減少しました。人件費は対前年度△141億円(△4.6%)の減、5年連続のマイナスで、5年間で499億円の大幅なマイナスです。職員の福利厚生の見直しでは、@互助組合への補助を廃止(△48億円)する一方、市の責務として行うべき厚生事業につい措置として7億円(物件費)を新たに計上しました。マスコミはこれを「つかみ金」と批判しましたが、有識者らの市福利厚生制度等改革委員会で4億円を削減し3億円にすることを決めています。さらに同委員会は20億円の福利厚生関連のうち結婚貸与金と、定時制高校や大学に通う職員への奨学貸与金の廃止も決めています。その他、A互助組合連合会給付金事業の廃止△25億円、B健康保険組合の保険料負担の見直し(1:1)△30億円、C団体定期保険の保険料助成事業の廃止△7億円(物件費)、D制服の貸与事業の廃止5億円(物件費)、E厚生会に対する助成金制度の廃止△5億円(物件費)、F教職員・学校職員厚生会の特別交付金廃止△5億円(物件費)、総額で福利厚生に見直しで△120億円の削減です。
 給与制度の見直しでは、@特殊勤務手当の廃止△45億円、A係長級の管理職手当の廃止△44億円の一方、超勤手当の増39億円を見込んでいます。総額で△50億円の削減、福利厚生と合わせて△170億円の削減となっています。しかし、給与制度の見直しについて市当局は係長級の超勤限度額を撤廃すれば管理職手当を廃止しても人件費がさらに膨らむ増加すると主張していました。超勤手当の増加額は、実態から算出したのではなく単に管理職手当の90%を見込んだに過ぎず、実際に増える超勤手当額がどの程度になるか予測が困難です。市民から批判を受けた「カラ超勤」は、区役所に集中している問題です。昨年12月27日、大阪市会計監理検討会の中間報告は、「区役所においては、…各事業主管局ごとに超過勤務手当予算が細分化して計上され、それぞれに予算管理が行われていたため、事業ごとの予算と業務実態との不均衡が生じているという予算措置上の問題もある」と指摘しました。新年度予算からこれまで5つの費目(区役所費・徴税費・健康福祉費・国民健康保険事業費・介護保険事業費)に細分化されていた区役所の超勤予算を、まとめて区役所費で計上されるようになりました。しかし、必要なことは実態に見合う超勤予算を確保することです。
 扶助費は生活保護費の増加などで136億円(3.8%)増えていますが、人件費や公債費△61億円(△3.0%)、物件費16億円(△0.9%)の減少で、経常的経費は△57億円(△0.5%)減となり、財政の硬直度をしめす経常収支比率も98.1%に1.1ポイント改善しました。
 公共事業である投資的経費は、10年連続の減少となっています。

「重点政策予算枠」を創設し、経済活性化と中間所得層の支援に重点をシフト

@重点産業分野には破格の優遇
 新年度予算では、「選択と集中」のため「重点政策予算枠」が創設され、79事業、90億円が計上されました。主には経済活性化に37億円、子育て・住宅関連事業に38億円です。都市経営諮問会議の『関市長への提言』では、「改革の基本理念は、『強い大阪』である。経済の活性化、すなわち産業政策が大阪市政全体における最優先課題であると明確に位置づけ、公平・平等の行政の常識的発想を転換し、重点的な産業政策への転換」「重点産業分野を中心に企業誘致や起業支援を行う」「企業誘致に係る助成金等の支援制度については…平成17年度に数十億円規模に拡充する」などが提言されました。05年度予算には、市長が定める重点産業集積促進地域に投下固定資本額300億円以上の企業等に対し大型特例制度を創設し、助成額は建設費等の5%以内で上限30億円とされています。対象も情報技術、バイオ、ナノテクノロジーなどの大阪市が重点産業とする分野に限定されています。その一方で産業経済費全体の予算は、逆に△28億円(△2.8%)の減となっています。

A中間所得者に偏った子育て支援対策
 もう一つの重点施策である「次世代を担う子どもの育成」は、中間所得者への支援に偏った内容になっています。『關市長への提言』でも「子育て世帯の市内定住を促進するため、平成17年度から子育て世帯に対する住宅取得を支援する利子補給制度を充実する」、今年2月9日に発表した大阪市市政運営方針(関ビジョン)でも「保育所待機児童の解消や習熟度別少人数授業の全校実施などを進め、子育て環境を充実するとともに、都市の活力を維持・増進するため、中堅層の市内居住の拡大に取り組む。」と打ち出されています。
 新年度予算では、新規事業として@分譲マンションや戸建ての民間分譲住宅を購入する子育て世帯(小学校3年生以下のいる世帯)を対象に、住宅ローンに対する利子補給(当初3年間0.5%)を実施。A子育て安心マンション認定制度の創設し、優良なマンションの認定、B優良環境住宅整備事業の実施し、キッズルーム設置や緑化推進など、都市型マンション建設に対して補助を行うことが盛り込まれました。ところが、昨年12月に策定した「大阪市次世代育成支援行動計画」(素案)にある「保育所保育料の軽減」など、低所得者層への支援は見当たりません。大阪市の深刻な課題である保育所の待機児童解消対策(900人)に17億2400万円が計上されましたが、対前年度で△1億4000万円の減となっています。しかも、保護者から反対と不安の声があがっている公立保育所の民間委託化を新たに4ヵ所で予定しています。
 小中学校では、習熟度別学習を2006年度全校実施にむけて拡充するため、教師238人分8億円を計上しています。しかし、専門家からも「学力格差はむしろ拡大する」(佐藤・東京大学教授)とその効果は疑問視されています。中学校での学校給食も実現していません。

再開発や第3セクターに新たな税金投入

 新年度予算を発表した日の日経新聞夕刊の見出しには「再開発や三セク 巨額の税投入は続く」が付けられました。再開発や第3セクター、土地信託事業への支援は新たな支援と税金が投入されようとしています。
阿倍野再開発事業は事業終了時に約2100臆円の赤字が見込まれています。2月22日、大阪市外部監査は「事業計画が甘い」と厳しく指摘しました。収支不足を補うために2005年度予算の一般会計から48億円、公債償還基金から93億円を新たに投入します。
 大阪市の第3セクターの鉄道「大阪港トランスポートシステム(OTS)線」の運行料金を値下げするために、大阪市が2005年度に車両・駅舎などを約56億円で購入し、通し運賃で料金を値下げします。その減収分を大阪市が05年度予算で26億円、計86億円を計上しました。今後10年間で約90億円を減収分として負担する方針です。利用者にとっては改善といえますが、そもそも交通局直営で運営すべきところを第3セクターで行ったことが間違いです。破綻したWTC、ATC、コスモスクエア2期地区開発への実質的な支援といえます。
 昨年に特定調停が成立した第3セクター3社には、05年度予算で家賃共益費53億円、補助金としてATC5億8500万円、MDC5億4500万円が計上されています。昨年11月に特定調停を申請した大阪ドームには、補助金4億円のみを計上しています。しかし、今年2月14日に大阪地裁に提出した経営再建計画では、大阪市が球場施設を100〜200億円で買い取る案を提示しています。クリスタ長堀も、大阪市が100%出資している大阪市道路公社が地下駐車場を買い取る案を提示し、今年2月25日の2回目の調停で大阪地裁は地下駐車場の評価額を47億円としました。しかし、05年度予算では補助金5億円を計上しているだけで、仮に2社についても特定調停が成立すれば、当初予算にはない新たな重い負担を強いられることになります。
 土地信託事業のフェスティバルゲートが380億円の大赤字で04年9月末に信託契約を解除し、赤字のうち大阪市が200億円を負担しました。10月1日からはオリックスなどに運営を委託しています。05年度予算では「交通記念館」整備費として3億円を計上されていますが、予算発表後に「交通記念館」の共益費4500万円と運営費1億2000万円の計1億6500万円を大阪市がオリックスに支払うことが決まりました。オリックスから大阪市への賃貸料は1億円が見込まれており、逆に大阪市が年間6500万円の持ち出しになります。交通記念館の共益費と運営費1億6500万円は新年度予算に計上されておらず、隠れた負担となります。

市民生活をめぐる攻防

 財政局は「大阪市財政構造の改革に向けて」(04年12月17日)を発表しました。「家庭ゴミ収集における粗大ごみ収集の有料化等の検討」、「保育所保育料の負担水準の検討」(財源確保をはかるため徴収基準の見直し)、「生活保護世帯に対する個人給付、減免の廃止検討」(夏期・歳末見舞金の廃止、上下水道料福祉措置の廃止、市営交通料金等福祉措置の廃止、高校生奨学費の見直し検討)、「市営交通料金等福祉措置(敬老優待乗車証)のあり方検討」(本人及び交通事業者負担を検討)、「新婚世帯向け家賃補助の内容について検討」、「いきいき放課後事業の見直し」(保護者負担の導入も含め)、「小児ぜん息等医療費助成制度の見直し」(一部自己負担導入を検討)、「重度障害者給付金・難病見舞金のあり方検討」、など、社会的弱者に対する福祉切捨てメニューを打ち出しました。新年度予算では、生活保護者の夏・冬のわずかな見舞金(3900円、4200円)を廃止、小児ゼンソク等医療費は自己負担(1回500円・月2回)を導入し、介護保険料を16.7%値上げするなど、市民に痛みを押し付けるものとなっています。しかし、敬老パス改悪反対の運動など、市民の運動で財政局が12月に発表したそのほかの改悪メニューを阻止する大きな成果をおさめているのが特徴です。
 国民健康保険料は6年ぶりに据え置きとなりました。市立高校普通教室への空調設備導入が2006年度から予定されました。しかし、大阪府の府立高校と同様に、利用料5400円(府と同額)、減免制度なしが考えられており、制度の改善が求められます。

「市民に信頼される自治体」づくりに労働組合の役割を発揮します

 05年度予算は、「今後の行政に求められる役割は自律できる市民を支援する」(『關市長への提言』)というニュー・パブリック・マネジメント(NPM)行革の色合いを強めています。職員の給与・福利厚生についても、労働組合との協議やこれまでの経過や役割を無視して一方的に削減するという、かつてない強権的なやり方で行われました。しかし、それが真の財政再建につながる保障はありません。深刻な状態におかれている市民のくらしと地域経済を再生させることで、財政の再建をはかることこそが必要です。市労組は職員の給与・福利厚生について市民から理解を得られないものについては見直しに応じる立場を表明しています。しかし、職員の福利厚生見直しを口実に市民福祉の削減に利用するようなことには反対をしていきます。大阪市は市民の信頼を回復するためと言いながら、一人の市民代表も入っていない市政改革本部を発足し、市政改革を進めるとしています。今後、市政改革本部の動向を厳しく監視し、「市民のためによい仕事がしたい」と願う職員の良心を結集し、「住んでよかった」といえる市民に信頼される自治体をつくるために市民との共同を広げて奮闘します。
                                            (以上)