地域に根ざした保健・福祉機能の拡充をー市労組からの提言ー
地域に根ざした保健・福祉機能の拡充を
ー市労組からの提言ー

2002年12月11日・大阪市役所労働組合


1.はじめに
(1)USJ不祥事の示すもの
 大阪市は、「国際・集客都市論」を展開し、その目玉として此花区にユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をオープンさせました。ところが今年7月から期限切れ食材使用事件、飲料水への工業用水配管ミス、池の水にレジオネラ菌混入など、いずれも健康被害が出てもおかしくない一連の不祥事が露呈しました。今回の問題は、保健所の統合、各区から健康を守る職員の引き上げ、人員減のもとで大阪市の責任として来場者の健康対策に配慮せず、ないがしろにしてきた結果引き起こされた事件です。このことは2年前の雪印食中毒事件ときわめて類似しています。各区にあった保健所を1ヵ所に集中化し、各区には機能や権限を縮小した「保健センター」を設置したその直後に雪印乳業の集団食中毒事件が発生し、各区に保健所がなくなっていたため対応が遅れ、被害が拡大してしまいました。この二つの事件は、公衆衛生行政の弱体化と保健所統廃合の影響がもろに出た事件といえます。監視業務の徹底でUSJの事件は未然に防ぐことができたはずです。しかし1ケ所の保健所から出かけていき、限られた人数の監視員による開業前の事前監視や年4回の通常監視では、充分に機能しなかったのは間違いありません。事件の再発防止には、監視員の増員と企業の自主性に任せない大規模施設の監視体制の抜本的見直しが必要です。また各区保健センターの体制強化と大阪市保健所との連携強化も必要です。

(2)大阪市における公衆衛生行政の弱体化
 大阪市は市民の反対を押し切って2000年4月、各区に1カ所あった保健所を全市にたった1カ所の保健所に統合してしまいました。各区の保健所は保健センターに格下げとなりました。環境・食品の監視指導業務は保健所に集中化され、保健センターは健診などの対人サービス部門が中心となりました。
 さらに2001年4月には大気や水・土壌の規制部分を下水道局と合体させ、新たに都市環境局をつくり、その結果、環境衛生部門はトータルとして一局で統括できなくなりました。つまり一体化していた公衆衛生行政は、都市環境局と健康福祉局に二分されることになりました。

2.「保健と福祉の総合化」提案の歴史的背景と問題
(1) 国の保健政策
 1937年、日中戦争勃発の年、富国強兵のために結核撲滅と母子保健の向上に寄与する期待を担って「旧保健所法」が制定され、保健所が創設されました。日本で初めて保健所が設置されたのは大阪市の小児保健所でした。乳児死亡が非常に高く、その実態を改善するためには保健所を設置して保健師による家庭訪問を行うという方法がとられました。

@保健所の夜明け・発展の時期
 戦後は1946年に日本国憲法が制定され、憲法第25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障および公衆衛生の向上および増進に努めなければならない」と明記されています。戦後の保健所は憲法25条に基づいた公衆衛生の第一線機関として位置づけられました。1947年に保健所法が抜本的に改正され、国民の生存権、健康権、環境権を保障する責務が国にあるとした上で、地方における公衆衛生の専門的行政機関として保健所の増設と機能の強化がはかられました。保健所は@保健と医療、および対人保健(健診など)と対物保健(環境衛生)の総合性、A住民参加による民主性、B人口おおむね10万人に1ヵ所を設置基準とした地域性および住民の身近なところで活動する現地性、などの特性を備えていました。全国すべての市町村に地域担当保健師が配置されて住民の健康・いのちを守る活動を展開してきました。国や地方自治体の責任が明確にされ、戦後の保健所を中心とした公衆衛生業務は住民要求と結合して充実強化してきました。健康に対する施策が充実し、赤痢や結核などの感染症が激減し、平均寿命が大きく延びました。

A保健所たそがれの時期
 しかし、1950年に朝鮮戦争が勃発し、政治が右傾化しました。地方自治が後退し、中央集権的政治が強化されました。1960年には保健所を人口規模や産業構造などによる「型別再編」を行い、1968年に厚生省は「基幹保健所構想」を策定しました。この案は保健所の機能を対人保健サービスと対物衛生に分け、対人保健サービスを市町村に移管し、対物衛生を広域地域ブロックの特定保健所に集中させるという内容でした。その後1972年には保健センター構想を打ち出し、住民参加とはおよそ縁のない保健所の再検討や試みを繰り返し、弱体化の一途をたどりました。

B保健所変質の時期
 オイルショックを経てわが国の経済が低成長期にはいった1978年、厚生省は「国民健康づくり対策」を策定しました。その基盤整備として市町村保健センターの設置を推進しました。市町村保健センターは保健所を統廃合し、保健所の対人保健サービスを市町村に移管するための布石でした。1981年には、第2臨時行政調査会が答申を出して、自助努力、効率化、民間活力の導入を提唱し、社会福祉の削減を打ち出しました。1982年に制定された「老人保健法」は、それまで無料だった老人医療費の患者一部負担を導入するとともに被用者保険からの拠出金を大幅に増やし、国庫負担の削減をはかりました。
 一方、自治省は1985年に「地方行革大綱」を定め、地方自治体の人減らし、仕事減らしを促進しました。その一つとして保健所の統廃合、業務の民間委託等が行われました。
 1987年行政監察局は「保健衛生に関する行政監察結果に基づく勧告」を行いました。主要な点は保健所業務の民間委託、縮小、廃止、市町村移管、監視・検査業務の特定保健所への集中化でした。それを受けて厚生省の「地域保健将来構想検討会」が報告をまとめました。その内容は、@2次医療圏に1ヵ所の保健所を設置、A対人保健サービスは主として市町村に移管、B試験検査と各種健診は民間に委託、C保健、福祉、医療の総合化、 D情報収集、企画調整、教育研修機能の強化等です。

C公衆衛生からの撤退
 さらに、2000年に21世紀の国民健康づくり運動として「健康日本21」が制定されました。健やかで心豊かに生活できる活力ある社会にするため、従来にも増して、健康を増進し、発病を予防する「一次予防」に重点を置き、早死や要介護状態を減少させ、健康寿命の延伸等を図っていくため、2010年度をめざして具体的な数値目標を提示したものです。「栄養・食生活」「身体活動・運動」「休養・こころの健康づくり」「たばこ」「アルコール」など9つの領域にわけ、70の目標設定をしたものです。しかし、これはそもそも医療費「適正化」対策として出されたものであり、健康の不平等の解消は目標としていません。「自分の健康は自分で守れ」と言われても、大気汚染や食の安全問題など国や地方自治体、企業の責任があいまいにされたままであり、個人の努力には限界があります。また、住民参加や住民の意向を反映する下からの積み上げ方式を採用せず、上からの目標を押し付けていることや、自治体から公衆衛生を後退させる問題などがあります。
 2002年の通常国会で医療改悪法案とともに強行可決された「健康増進法」は「健康日本21」を法的に裏付けるものですが、憲法で保障されている健康権の公的責任よりも「国民の健康保持努力『義務』」が強調されています。

(2)大阪市の保健行政
 大阪市においては戦前の1938年に阿倍野保健所が「モデル保健所」として設置され、全国的にも脚光をあびました。その後は各区に1ヵ所の保健所を設置し、業務を充実させてきました。しかし、1970年代頃より公害問題や結核対策、中高年死亡の増加など大都市特有の問題への対処が不十分だったこともあり、全国一の不健康都市に転落していきました。
 国の「老人保健法」によって保健所の業務が健診活動中心になり、地域における家庭訪問活動が激減し、予防活動が弱体化していきました。大阪市においても寝たきり老人の家庭訪問や検診活動などに正規保健師を増員するのではなく「環境保健協会」という第3セクターの外郭団体のアルバイト看護師による業務を行ってきました。保健師の増員は実現しましたが、精神保健福祉相談員は多くの政令都市や都道府県の保健所では福祉職員を配置していますが、大阪市においては十分な要員配置がされないまま保健師が精神保健の業務を兼務しています。また、保健所・保健センター以外の職場に勤務している保健師も多く、1人あたりの保健師の受け持ち人口は平均1万2000人であり、地域住民の健康に責任をもてる体制にはなっていません。
 1980年代から医療費削減を目的として「健康の自己責任論」がだされ、「成人病」が「生活習慣病」と変わり「自分の健康は自分で守れ」といわれるようになりました。労働問題や経済問題、ストレスなど社会経済的な問題などが病気の背景にありますが、その解決には殆んど手をつけられないまま「自己責任」を言われても多くの国民は改善の方法を見出すことができません。
 政府の「健康日本21」の大阪市版として2001年3月に「すこやか大阪21」が出されました。国の計画に沿って大阪市も2010年までの目標が数値化されていますが、具体的な解決方法が提示されていない計画は「絵にかいた餅」になるのではないかと危惧されます。特に大阪市は中小零細企業の従業員や自営業者が多く、長引く不況のもとで「食べていくだけが精一杯」という状況であり、また医療費負担の増加しているもとで病気になっても受診できないため病気の早期発見が困難です。治療に対しても医療費などの負担が重くのしかかり、国民健康保険は傷病手当金が支給されないため入院が必要でも入院できない状況も少なくありません。
 また、大阪市は全国一の日雇い労働市場がありますが、長引く不況で仕事がなくなり、野宿生活者(ホームレス)が急増し、大阪市内で1万人を超えると言われています。彼らのほとんどは健康保険もお金もなく、健康破壊が進み、あいりん地区の結核の罹患率(結核にかかる人数の人口10万人に対する率)は全国平均の50倍にものぼっています。住所不定者のうち死亡する人の平均寿命は約56歳という驚くべき短命です。大阪市には憲法第25条で定められた生存権を保障するための公的責任が求められます。

(3)大阪市の保健所統廃合の経過と現状
 大阪市では1974年に分区が行われ、22区から26区になりました。分区に伴って必要な要員配置を行い、保健所職員が大幅に増員されました。40万人近かった旧東住吉区が平野区と分割されましたが、人口20万人の平野区は「保健所法」で定められていた「人口10万人に1ヵ所を基本とする」ことからみれば、あと1ヵ所の保健所が必要であり、住民からも要求として保健所増設要求が出されていました。しかし、大阪市は1989年には旧北区と大淀区を北区、南区と東区を中央区として合区し、24保健所体制となりました。合区にともなって保健所職員の削減が行われました。
 大阪市は老人保健法で多くの増員が必要になった時、「総事業の積み上げ方式」によって要員算定を行い、人減らし・合理化を行ってきました。例えば事務職員の「総事業の積み上げ方式」とは、それぞれの事業に何人が必要なのか分単位で計算し、その結果何人が余るとして人員削減を行うものでした。放射線技師や検査員はセンターに集中化させ、事業のある時だけ担当の保健所に出向くという方法をとってきました。業務が集中化することで繁忙度が増し労働強化がおこり、担当保健所に出張という形をとることにより保健所職員間の連携などが不十分になってしまいました。住民の側からもレントゲン撮影や喀痰の検査などが今までは必要に応じていつでも可能でしたが、実施日が月数回に限られサービスが低下しました。
 また、1988年には食品衛生監視員と環境衛生監視員の一本化(統合)も行われ、16人もの人員削減がされました。職種統合によって業務の専門性が薄められ、市民サービスが低下したことは否めません。事務職員においても約50の法律に基づいた保健所行政の遂行をするためには業務に対する専門知識と習熟が求められていますが、人員削減や機構改革によって繁忙化、複雑化が進行しています。
 保健師は全体として人員の増加はなされたものの、環境保健協会、区在宅介護支援センターなどの外郭団体に勤務する保健師が増加し、保健所勤務の保健師は削減されてきました。業務が増加する中で人員削減されたため乳幼児健診や予防接種などにおいては環境保健協会のアルバイト看護師の方が保健師より多いという実態も生まれています。
 大阪市は2000年4月に多くの住民や保健所職員の反対を押し切って1保健所24保健センター化をおこないました。人口260万人、昼間人口は約400万人という全国一多くの人口を担当する保健所の誕生に保健所つぶしを推進してきた旧厚生省ですら懸念をかくせませんでした。この中で多くの職種で人員削減が強行されました。特に各区に配置されていた監視員は62名が保健所に引き上げられ、全体としても12名が削減されてしまいました。当局は「各区の市民サービスは低下させない」と公言してきましたが、その質が低下したことは否めません。大阪市の健康水準は全国最悪であり、保健所機能の強化を行なわなければならないにもかかわらず、全市で1保健所体制にすることは保健所の役割を放棄したとも言えます。市労組は、1995年に住民団体と一緒に「保健所を守る大阪市民の会」を結成して「各区の保健所をなくすな」「公衆衛生機能の拡充を」と運動を進めてきました。

(4)「保健と福祉の総合化」のねらいと問題点
 1990年代初めに広島県が日本で最初に「保健と福祉の統合」を行い、保健所を「保健福祉事務所」化しました。この機構改革は当時から保健所機能の弱体化が予測されていましたが、10年経過した現在、保健所の予防活動が衰退し公衆衛生活動が「福祉にわい小化された」と言われています。その後、島根県など中国地方や北九州市など九州地方を皮切りに全国各地で「保健と福祉の統合」が進められています。旧厚生省は「地域保健法」を成立させるために「疾病構造の多様化」「高齢社会の到来」「身近なサービス」を理由に「保健と福祉の統合が必要」とし、一部の自治体が保健所と福祉事務所を組織統合していきました。
  「地方分権推進委員会」の「第2次勧告」には「保健所については、福祉事務所等他の行政機関との統合が可能であり、その統合組織の一部を地域保健法の保健所とする条例の制定は、地域保健法上禁じられていない」としています。「保健と福祉の統合」の狙いは、@政府の医療・社会保障制度改悪の一環として、公衆衛生を一層後退させること、A「臨調行革」路線による自治体リストラと人員削減、住民負担の増大を一層推し進めることにあります。そのことは @「統合」は必ず保健所の統廃合や支所の廃止等を前提としている(保健所数の減少や職員の削減がなによりの証拠です)、A組織の「統合」だけが先行し「統合」のメリットが明らかでない。裏をかえせば組織「統合」しなくても「保健と福祉の連携」は可能である、B「統合」が機構改革として行われている。北九州市の場合は保健所が保健センター化し、区役所に編入したあと「まちづくり推進課」となってしまい、保健センターという名称すら消えています。保健師の仕事は生活保護の「適正化」を主な目的としてケースワーカーと同伴訪問が増加していると言われています。保健師が本来業務である予防活動を行うことを軽視し、福祉業務のほうにシフトすることにより公衆衛生の解体を招いたことは統合された自治体の現状を見れば明らかです。現行の保健センター業務には公害、食品、環境、医療監視など福祉と合体することにメリットのないものがあります。これらの業務が縮少、廃止、集中化されることが懸念されます。大阪市における「保健と福祉の総合化」提案も、行財政計画の一環としての職員の5%(2000人)人員削減を目的とした機構改革と無関係ではなく、人員削減と公衆衛生の解体という狙いに留意する必要があります。

3.区役所福祉部門からみた「保健と福祉の統合化」
 近年、少子・高齢化を反映して、区役所の窓口には高齢者介護や生きがい施策、子育て支援等の様々な問い合わせ、相談、手続きが行なわれるなど、区役所に対する市民の保健・福祉にかかるニーズも多様化しています。
 シビックセンターとしての区役所の役割は、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らしていくために、保健・医療・福祉サービスを総合的に提供できる職場体制が必要です。
 また、区役所福祉部門においても市民の保健・福祉にかかる住民ニーズを総合的に把握し、そのニーズに保健・医療・福祉の各機関が連携し、市民生活に対応できる総合的な受付窓口の充実、きめ細かな住民サービスの確立が求められています。

(1)区役所福祉部門の業務再編
 1990年以降、区役所における福祉部門の業務内容は、大きく再編されました。1991年度「保健と福祉の連携を図るため」にとして、区役所区民室に高齢化社会対策担当として福祉職員、保健師の専門職を配置しました。
 1997年度には、区役所に健康福祉サービス課を創設し、高齢者、児童・母子、障害者の保健・福祉ニーズにかかる総合相談窓口をめざしました。さらに1999年度に介護保険制度が導入されたことに伴い、健康福祉サービス課に介護保険係を新設しました。その際に保健師等の専門スタッフを配置するなど、介護に関する業務展開を行ないました。
 2001年度には、区役所保険年金課が所管していた敬老優待乗車証交付関係事務などを健康福祉サービス課に移管しました。
 2002年度は区役所全体で係の統廃合を含む大幅な機構改革が行われました。児童手当事務、老人・乳幼児・重度障害者医療助成事務が保険年金課から健康福祉サービス課に移管されました。その結果、区役所健康福祉サービス課においては、児童手当、各種医療助成等の事務移管の円滑な執行や、児童虐待防止、ドメスティック・バイオレンス(DV)被害者救済等の喫緊の課題が加わりました。また、痴呆性高齢者、知的障害者等への成年後見システムなどの新規事業の実施、児童扶養手当事務の「認定」業務等を区役所において実施することになりました。
 近年、福祉サービスが「措置」方式から「利用契約」方式へと改悪される中で、障害者福祉においても2003年度に措置制度から支援費支給制度に移行します。そのため2002年度下半期から準備事務が必要になっています。支援費支給制度への移行に伴う申請の受付・審査・決定、指定事業者等との調整などの必要に迫られています。

(2)係機能を超える業務が累積
 総合相談窓口を担当する健康福祉係においては、一方で日常業務として高齢者、障害者、児童・母子福祉のケースワークを行うために専門領域の深い知識を求められています。他方では輪番制による窓口対応において福祉五法はもちろん、DV、成年後見制度など業務が拡大し幅広い知識を求められています。現体制では、一つの係としての機能を超える業務が累積されています。そのため多種多様な業務を1人の職員が輪番で窓口対応するのは限界を越える状況となっています。

(3)当局提案に対する市労組区役所支部評議会の対応
 2002年2月に当局から「平成15年度を目途に各区に健康福祉担当部門を整備することを前提として、平成14年に保健センターを区役所に組織移管する」ことが示されました。区役所評議会は、保健・福祉・医療の総合化を推進するべきという立場ですが、この組織統合によって保健センターが長年培ってきた公衆衛生行政の成果を後退させることがあってはならないとの考えを明らかにしました。2002年度の最終団体交渉では、区役所における「保健と福祉の連携」の当該職場である福祉事務所、健康福祉サービス課での人員の確保が必要であることを繰り返し述べました。

4.「保健と福祉の総合化」に対する市労組の提言
 これまで大阪市では、健康福祉局と保健所、保健センターという市民の健康を守る部署が相互に連携して、健康対策を実施してきました。しかし保健センターが区役所行政の中に入ることによって、これまで連携してきたシステムが崩れ、公衆衛生の独自機能が弱まる恐れがあります。その一方、たとえば母子関係の相談時には子どもの健康相談から健診・予防注射、母子医療の手続き等、福祉分野と情報の共有化が図られることで、より市民の利便性が向上することが期待できます。市労組は、2003年4月に予定されている保健センターと区役所との本格「統合」にあたって、公衆衛生の独自性の発揮と住民サービスの向上のために、以下のことを提言します。

提言その1 
公衆衛生における予防的機能を充実させる


 公衆衛生行政における問題解決の基本は次のようにまとめられます。
@市民が暮らしている現場へ出かけ、そこで起こっている健康問題を知り、現場での解決を図る手法。(現場主義)
A市民が自分の問題として健康問題に取り組めるように援助する市民主体の原則。
B環境問題も食品問題も公害問題も健康危機管理も総合的に実施する、総合性。
C市民に平等、公正、無料の原則で実施されること。
 このことは市民の立場にたった有意義な問題の解決法と言えます。保健センターは予防的に動く機能をもっています。公衆衛生行政が持っている予防的機能が区役所福祉分門と統合した後でも十分に発揮できるようにすることが必要です。そして区における公衆衛生行政の企画立案に市民が参加することで、より市民に有益で身近な区役所行政にすることです。

提言その2 
市民が健康に暮らす権利が守られるための基盤をつくる


 市民の健康に暮らす権利は、憲法に保障されています。その基盤となるのが、 
@大気・水・土壌の安全など健康に暮らせる生活の基盤が保障されていること、健康に関する情報が的確に知らされること。
A市民の立場に立った健康政策が、市民参加で企画立案されること。
B市民の生活状況が市民にフィードバックされること、等です。
大阪市の保健所行政が1保健所24保健センター体制に移行するとき、当時の環境保健局は「市民サービスは低下させない」と断言しました。しかし、各区からその機能を失った食品衛生行政では、違反した業者に営業停止処分をかける時でも、今まで各区の保健所が監視指導に出かけ、違反を摘発しすぐ営業停止ができました。しかし現在は、まず各区の保健センターが視察を行い、疑わしい事例は保健所に報告され、保健所から監視員が現場へ出向き、その後営業停止処分がなされます。各区に保健所があったときと比べると対応が遅くなっています。この間にも市民は、その食品製造業者の製造販売する食品を口にするかも知れないのです。これが24保健センター化した結果としての住民サービス低下といえます。公衆衛生の機能や福祉サービスの向上こそが、市民が健康に暮らす基盤です。

提言その3 
保健センター機能の充実させる

 現在の保健センターには、@健康相談や栄養相談、体力測定にもとづく運動指導などの健康づくりの推進、A地域に出向いて行う健康教育・健康診断等の生活習慣病対策、B母子保健、C高齢者保健、D精神保健福祉、E公害健康事業、F難病対策、G結核・感染症対策、H環境衛生・食品衛生・環境保全、I医療関係・免許申請関係等、大きく分けて10の業務があります。
 これらの業務は、市民の健康を増進し、疾病を予防し、疾病からの早期回復を進めるなど、市民が健康に生活できるようにする機能です。この役割は栄養士や保健師、監視員等の専門職や健康対策に精通した事務職員の働きにかかっています。保健と福祉の統合によって、保健センターの業務の一部が保健所に集中化されることも考えられます。しかし、この業務の1つでも各区の保健センターからなくなることになれば、また人員削減によってその働きが弱まることになれば、市民にとって保健と福祉を統合するメリットはありません。各区で行っている業務を保健所に集中化してはなりません。

提言その4 
健康問題を統括する責任ある医師を配置する


 公衆衛生における医師の役割には大変重要なものがあります。いろいろな専門職が関連して業務を遂行している保健部門では、それらを統括する医師の存在が不可欠です。健康に関して医学的判断が常に求められ、それは区長の管轄にあっても公正で科学性を求められます。また地域の医師会や歯科医師会等の協力で事業を推進していくことが多い部署でもあり、地域のそれらの諸団体との連絡調整に大きな役割を果たし、また結核や伝染病発生の緊急時には統括する部署に医師が必要なことは言うまでもありません。
 市労組は、大きな役割がある医師を常時配置し、地域の健康問題に深く関わってより市民の健康問題に寄与すべきだと考えます。
 地域保健法では各区の保健センターの所長を医師とする規程がないにもかかわらず、大阪市では医師を配置させたことは、保健所統廃合を阻止する運動で得た大きな成果でした。しかし、保健センターそのものが消え去ろうとしているとき、医師の機能としての存在は危うくなっています。各行政区から健康を守る要である医師が果たす役割をなくしてはなりません。

提言その5 
精神保健福祉相談員を増員する

 精神保健福祉相談員は、東住吉区と西成区のみ2名が配置されていますが、その他の区はたった1人の配置で精神保健福祉業務全般を担っています。近年の不況・失業の増加、長時間過密労働等、ストレスの多い社会情勢を反映して、精神疾患は増加を続けています。また病気とまでは言えない精神的状態も増加しており、精神保健福祉相談員は相談業務や社会復帰事業に繁忙を極めています。精神保健福祉相談員の配置が人口20万人の区でも1人という驚くべき実態です。そのため社会的偏見の払拭等の保健事業までは手が回らないのが実状です。各行政区に複数の精神保健福祉相談員の配置がどうしても必要です。

提言その6 
専門職がその専門性を発揮できる素地を確保する

 専門職がその専門性を発揮するには、対象とする地域住民に対して専門の技術が十分に活かせるようにすることです。家庭環境や住宅環境が不明、家庭訪問ができない状態では真の保健師の技術は生かされません。また地域全体の健康状態の把握ができて、どこをどのように改善しなければならないかを提言できなければ専門性とは言えません。その意味で保健師の地域を担当する地区分担制を堅持し、小学校区で1人を配置することが必要です。また専門職どうしの情報交換や相互学習が日常的に行われ、その蓄積が集団としての専門性を発揮させることが必要です。

提言その7 
受け皿となる区役所の要員を増やして体制を整備する


 区役所には膨大な住民情報があり、保健と福祉が連携することでお互いの機能を発揮する可能性が十分にあり、本来の「総合相談窓口」につながり得るものです。しかし、現状のままでは区役所福祉部門に数多くの事務が集中し、必要な福祉業務機能を発揮できる職員配置には不十分です。「保健と福祉の統合化」の受け皿となる区役所福祉部門の職員を増やして体制を整備することがその前提となっています。

5.保健センターの区役所編入に対する市労組の基本的立場
 当局から提案されている保健センターの区役所への移管、編入に対して市労組は以下のことを基本にとりくみます。

@市民のいのちや健康を守り、さらに健康政策を充実強化するためには、今まで培ってきた公衆衛生、予防活動の強化が必要であり、そのためには各区における保健センターが健康福祉局や保健所と連携を強め、地域における第一線機関として拡充・強化する必要がある。

A保健センターの区役所への移管にあたっては、総合的な「保健福祉担当部門」として構築するとともに、公衆衛生行政をはじめとする保健センター固有の業務の発展をめざすべきである。

Bところが保健と福祉の組織統合や移管、編入がなされた自治体では、統合によるメリットが発揮されていないばかりか、生活保護の「適正化」のためにケースワーカーの仕事を保健師にさせている自治体もある。また、移管を契機にして保健師の業務を現在の地区担当制から業務担当制に変更されるおそれもある。業務担当制は保健師業務を疾病別に担当するもので、地域全体の健康問題を把握し、行政に反映させる保健師活動を展開する上で大きな問題がある。保健師の公衆衛生看護活動を保障し、地区担当制を基本とする立場から業務担当制には反対である。

C区役所の健康福祉サービス課は極めて繁忙である。区役所の健康福祉サービス課や福祉事務所の業務をきちんと検証し、必要な人員配置を行うこと抜きには、保健センターを移管しても区役所における保健福祉機能の充実・拡充につながるとは言えない。

D大阪市の内規に保健センターの長を正規の医師とすると定められているが、区役所に移管した場合、将来的にそのことが保障されるか危惧される。公衆衛生を専門とする医師がいないと地域の医師会や歯科医師会などとの連携がうまくいかなくなる恐れもある。各区における医師の配置を堅持する。

E公衆衛生は対人保健サービスと環境を中心とした対物サービスが車の両輪のような関係にあり、総合性が求められる。環境部門は特に区役所行政との関連性が薄く、統合することにより業務が集中化されたり、将来は民間に委託される危険性もある。住民に身近な区役所における対人・対物の総合的サービスの充実が求められる。

F今回の当局提案は、「初めに保健と福祉の統合ありき」であり、区役所における保健福祉機能を強化することよりも、人員削減を先行させることにつながるのではないかと危惧される。「保健と福祉の連携」を口実にした人員削減には反対し、必要な要員を含めた体制の整備を求めていく。

6.今後の課題
 0−157問題、BSE(狂牛病)問題、雪印食中毒事件、USJの不祥事等、健康をおびやかす事件や問題が次々と起こる背景に、国や大阪市の健康対策からの撤退があります。医療費自己負担の増額や健康自己責任論のまん延等、健康に生きていく権利が侵害されている現実を、市民に問いかけ、知らせていく必要があります。
また市民参加で住民の健康を維持向上させるには何が必要かを検討する新たな区における「健康懇話会組織」(仮称)の創設等、市民・区民と共同した取り組みが必要です。市労組は、十分な人員や専門スタッフの配置を要求し、連絡調整機能を充実させ、住民にとっての保健・福祉サービスを向上させる取り組みをすすめます。

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