住民基本台帳ネットワークシステムの8月実施の凍結を求める談話
大阪市当局は総務省に対して「住民基本台帳ネットワークシステム」の8月実施の凍結を求めるべきである

2002年7月1日・大阪市役所労働組合
書記長 藤原 一郎


 政府はITに名を借りて全国の自治体を統合し、政府の管理支配を強める中央集権を強化しようとしています。その典型が「住民基本台帳ネットワークシステム」です。法整備ができず、またどのように活用されるか未成熟のままに走り出すことは、憲法に保障された基本的人権や地方自治の本旨からも問題があり、260万市民にも多大の影響をもたらすものであるだけに国民の立場から個人情報保護について再度構築する必要があります。

@ 国会答弁にも反する今回の政府提案
 1999年の住民基本台帳法「改正」の審議で、当時の小渕首相は「個人情報保護に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることが前提」と答弁しており、個人情報保護法制が未整備のもとで、住民基本台帳ネットワークを実施することはプライバシーが侵害されるおそれがあると国会答弁を行いました。当時、このような住民基本台帳法「改正」がガイドライン関連法案と盗聴法とのセットで自公により強行成立させられました。その際、国会付帯決議として個人情報保護法の制定によって国民の権利を守ることが決定されています。
 ところが今回実際に国会に出された法案は国民の権利を保障するどころか実際はメディア規制法であり、多くの国民的批判の中、成立することが断念されたと報じられています。

A 住民情報保護について260万大阪市民に対する説明責任が果たせない
 防衛庁の個人情報リストの作成が人権侵害と厳しい批判を浴び、しかも調査報告がまったくでたらめで、国民と国会を欺くものであったことが明らかになる中で、このシステムを8月から実施することは、個人情報保護のあり方について自治体や担当者が国民・住民に対して説明責任を果たすことができません。まして国会に提出されている「行政機関の保有する個人情報保護法」の改正案には、個人情報の収集制限に関する明確な罰則規定はなく、目的外利用を広く認めているなど重大な問題を含んでいます。
 すでに市民局や区役所の当該職場では準備作業が進められていますが、個人情報の保護やシステムについては、多くの自治体では国の動向に頼るだけで、自治体の主体性が十分に機能していないのが実態です。
 政府は住民基本台帳ネットワークの利用範囲を拡大し、約160の事務を追加、施行前に再改正して利用の拡大を可能とする住民基本台帳法「改正案」を閣議決定、国会に提出しました。
 「住民基本台帳ネットワークシステム」は、全ての国民の住民票に11ケタのコード番号を付け、氏名、住所、生年月日など6項目の個人情報をコンピューターで一元管理するというもので、当初は個人情報の利用範囲を限定することを条件に立法化していたものです。

B 住民基本台帳ネットワーク稼動に各地で疑問の声がわきおこる
 こうした中で、6月14日、野党4党は住民基本台帳ネットワークシステムの8月実施の凍結を求めることで一致し、今後「凍結法案」の提出も視野に入れています。東京都国分寺市の星野市長は住民基本台帳ネットワークの稼動延期を求める要望書を総務省に提出、また国立市の上原市長も延期の意見書を提出しています。
 高知県の十和村議会や東京都日野市議会も延期の意見書を全会一致で採択しました。東京都杉並区は「住民基本台帳法で定めた付則に違反する可能性が高く、稼動凍結、延期は当然」と離脱の動きも見せています。
 名古屋市当局は桜井よしこさんをパネラーに迎え住基ネット反対のシンポジウムを開催しました。
 都道府県でもこのままでの稼動には問題が多いことを受けて新たな動きがでています。
 長野県の田中康夫知事は住民基本台帳ネットワークシステムでの個人情報の保護を目的にした条例案を提出しました。条例案では本人確認情報の漏洩や不適切な利用について県の責務を明記し、国の機関などでの目的外利用が認められた場合に地方自治情報センターに必要な調査を指示し、報告を求めることができるとしています。
 また、大阪市役所でも当該職場である区役所住民情報課をはじめとする職員の間でも国会における個人情報保護法審議の経過からも、あまりに性急な準備作業に対する不満が渦まいています。
 6月17日に東京で行われた日本弁護士連合会主催のシンポジウムでは、あいさつにたった自民党の阪上善秀氏も今国会で凍結し、引き続きの議論を呼びかけています。
 さらにマスコミでも国民合意のないままの稼動に対する批判が強まっています。
 毎日新聞は社説で「凍結」を求めています。朝日新聞「天声人語」でもこうした動きを紹介しながらシステムが始まることも、その恐ろしさを国民が知らされていないと指摘しています。
 個人情報保護法制の整備ができず、また政府の意向で利用範囲を拡大できるなど、憲法に保障された基本的人権や地方自治の本旨からも問題があります。

C 誰にとってのメリットか
 市労組は住民基本台帳法「改正」にあたって、第1に、国管理の「国民総背番号制」への危険な道であること、第2に、「法」の趣旨は個人情報の保護でありこの立場から全国の自治体は個人情報保護条例などを制定して厳重にしているが、ネットワーク化はこうした自治体の努力を否定するものであること、第3に、しかもこうしたシステムに初期費用で365億円、年間の運用費用に190億円もかかるなどコストの面でも全くメリットがないことを明らかにしてきました。
8月5日の実施を目前にしたいま、市労組は、あらためてこの「システム」の問題点を指摘し、大阪市当局が総務省に対して8月実施を凍結し、再検討を求めるよう要請するものです。

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