機構改革に対する視点と市労組の基本的態度について
機構改革に対する視点と
市労組の基本的態度について

2000年3月9日
大阪市役所労働組合


 2001年2月21日、市側から「職制改正について(案)」の基本方針と主な改正項目が示された。
 今回の機構改革は、2000年4月の地方分権一活法の施行による地方分権への対応と、2001年1月に実施された新総務省、厚生労働省、国土交通省などの再編に見られる中央省庁等改革関連法の施行を見定めた対応という背景がある。
 市労組は、憲法と地方自治に対する21世紀への課題と展望を明らかにするため、@地方自治を再編し、憲法改悪までもくろもうとする政府・財界の反動的戦略を国民・住民の視点から明らかにすること。A各地域・分野ですすめられた憲法と地方自治法の立場に立った市民と市役所労働者の共同の運動やたたかいを共有すること。B市役所職場の実態やそこで働く職員の声に耳を傾け、「住民全体の奉仕者」としての自治体労働者の存在意義と自治体労働運動の方向を明らかにすること。Cこれまでの運動の蓄積を生かし、地方自治と市民との共同のもつ積極的な役割を学ぶことを基本に運動をすすめてきた。
 また、市労組は、民主的行財政改革のとりくみにあたって、つぎの視点を明らかにしてきた。
 それは第1に、憲法にもとづく真の地方自治の確立と分権化、市民主体の民主的効率的行財政実現する方向での検討をすすめること。第2に、自治体の主人公である市民と職場の主人公である職員が行財政改革の主体であり、この両者の要求を基礎にした共闘の発展こそ、行財政改革の原動力であること。また、第3に、市民の要求と自治体労働者の行財政点検にもとづく政策こそ、行財政改革の方向をさし示す指針であること。そして、第4に、行政への参加については民主的自治体の活力の源泉である市民参加、職員参加を改革のプロセスにつらぬかなくてはならないこと。さらに第5に、民主的行財政改革をすすめる障害となるのは官僚主義であり、これと日常的にたたかいをすすめることが改革を成功させる上で重要なキーポイントとなっていること、である。
 こうした民主的行財政改革のとりくみをすすめるためにも,市当局がもっているあらゆる情報を公開させ、秘密主義を打破していく必要があり、また「行財政」も市民の生活実態や、それに伴う要求の変化にあわせて、その内容を常に変革し、改善をはかっていくことであり、行財政改革は、民主的自治体の日常的な課題であることとしてとらえることが重要と考え、運動をすすめてきた。


1. 市労組の基本的態度について

 機構改革問題に対する私たち市労組の基本的立場は、第1には、自治体労働者と労働組合は、行政当局が機構改革の動きを示そうが示さまいが、日常不断の運動として行政の民主化をめざした機構の改革にとりくむべきである。また、市当局が機構改革をすすめる動きを察知したときには情報収集をはかるとともに、当局に対し説明責任をただす交渉を行なう立場をとっている。その場合、さまざまな困難をともなっても市当局の意図や動きをできるだけ正確につかみ、「機構改革」の目的や背景を総合的に把握することが重要である。今回の場合もまず一部の局から機構改革の動きについて定期大会で代議員の質問があり、情報収集を開始し、市当局にも「職制改正」について問いただしてきた。その後、一部のマスコミが12月29日に新聞紙上で報じ、市労組関係職場にも所属との関係で情報を聴取するよう要請してきた。
 自治体労働組合は、ややもすると、住民の立場からみて好ましい人員配置(当該職場では「削減」となって現れることもある)や機構改革でさえも反対するという現状固定的な保守的態度に陥りがちであるが、当局案への批判と反対にとどまることなく、住民と自治体労働者による政策対置を行なうことが必要である。要は、あくまでも、市民本位の行政の確立をめざす変革の立場でとりくむことが中心的環なのである。
 第2には、市民要求と自治体労働者の要求を統一してとらえ、両者の要求をともに実現する立場に立つことである。市当局の機構改革案が果たして改革なのか、あるいは改悪なのかの判断基準は、その提案が、市民本位の行政レベルを低下させないか、市民生活にマイナスの影響を与えないか、住民自治を前進させるものかどうかが重要な判断ポイントとなるということである。
 第3には、機構改革は人員と仕事のすすめ方の2つと深く関連しているということである。機構の新設、廃止、統廃合を固定的にとらえず、市民本位の民主的効率的行政をすすめる立場で人員配置や仕事のすすめ方を根本的に検証するという観点が求められるという点である。
 第4に市当局は、労働組合が機構改革や人事について交渉を求める場合、「給与、勤務時間その他の労働条件にあたらない」として、交渉を拒否したり、形骸化する態度をとることがしばしばある。地公法55条は、憲法に保障された労働基本権を大きくゆがめた中で、最小限のこととして交渉権と書面による協定を認めたものであって、交渉内容を規制するための条文ではないことは明らかである。
 機構改革は「管理運営事項」とされても、それによって職員の配置転換が生じるのが普通で、その結果、要員数の変化、通勤距離・時間の変化が伴うものである。また、機構改革は、職員の労働過程が改編され、職員に犠牲をもたらす内容をもっている事が少なくなく、労働条件そのものの問題といって過言ではない。
 これらの基本点を踏まえ、市側の「機構改革」のもつ問題点や検証項目について労働組合との協議において十分な説明と解明をされるよう対応を求める。また、各局関連職場の具体的内容や行政執行体制についても協議し、市労組としてひきつづき検証し、具体的解明をはかることとする。

 そのうえで、市側の基本方針で述べている「新たな行財政改革の推進に当たり、分権時代にふさわしい行政運営の確立を図るため」「平成13年度から取り組むべき『総合計画21推進のための新指針』など本市主要政策、施策の総合的かつ着実な推進」「新たな行政需要に積極的かつ効果的に対応し得る総合的な施策推進体制の確立」「市民ニーズの多様化や変化等に的確かつ機動的に対応し得るような簡素で効率的な執行体制の確立」を基本として、「職制改正を行なう」としているが、いくつかの点で指摘をせざるを得ない。


2.市側の主な改正項目案についての市労組としての認識

(1)「ゆとりとみどり振興局」については、スポーツ・レクリエーション、文化観光施策推進組織の再編整備を基本として花とみどりあふれる良好な都市環境を創出するとともに、これを活用したスポーツ・レクリエーション施策及び魅力ある文化観光施策等を総合的に推進し、スポーツパラダイス大阪、文化の香り高い国際集客都市大阪の実現を目指すため、建設局花と緑の推進本部、教育委員会事務局スポーツ部、市民局文化振興課、経済局都市観光課を統合する新設局としている。
 
 市教育委員会の管轄を学校教育部門だけにし、生涯学習、文化・スポーツ振興などの社会教育部門を市長部局の直轄とする組織改革である。「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」は地方教育委員会の権限を「体育(スポーツを含む)」「社会教育」などとしており、「一般行政からの教育の独立が危うくなる」という批判もある。地方自治法の事務委任条項など活用し、市長部局が一部の事務を実施することが可能であることを根拠としていると思われるが、元来、教育委員会は、教育行政の政治的中立性を確保するため、一般行政から独立した行政委員会となっているところから慎重な検討を要するものである。
 いずれにしても市民が都市に魅力を感じ定住し、人々が集まることは街づくりにとって重要なポイントになることは否定するものではないが、大阪市民自らがスポーツや文化が生活に根づいたものが要求として存在するものである。現状でさえ市民が文化・スポーツ施設の使用料の点、各行政区の施設数の点など利用しやすいものとなっていないことから機構改革のあり方と併せて内容の充実に検討を要するものである。集客に重きを置きイベントや観光事業に傾注しないよう指摘せざるを得ない。
 
(2)「健康福祉局」については、福祉、保健、医療担当組織の再編整備を行なうとし、市民の健康、福祉に係る連携を強化し、高齢者、児童、障害者施策等の総合性を高め、市民の安全ネット推進体制を確保し、福祉、保健、医療分野における市民ニーズにきめ細かく対応するため、民生局と環境保健局(環境部を除く。)を統合して、新設局としている。
 
 介護保険がスタートして10カ月が経過した。大きな問題は、利用量負担が高額で、負担できないことである。高齢者の多くは、これまで受けてきたサービスを減らし我慢することで必至に高負担にたえている。また、ショートステイの利用制限や福祉資源の不足なども大きな問題となっている。その上、高齢者の4割が生活保護基準以下の収入での生活を余儀なくされているといわれている。必要なときに安心して利用できる制度として保険料減免制度のさらなる拡充など大阪市の責任として求められるものである。
 昨年6月に社会福祉事業法など障害者関連福祉法が大きく変わった。2003年から障害者の福祉も、事業者と利用者の直接契約で提供するというものである。利用契約制度の導入は、これまでの行政責任で行なわれてきた福祉を個人の責任による「契約」にもとづいて実施するというもので、収入のない障害者や介護に人手のかかる重度障害者などが取り残される心配が生まれている。
 昨年7月に発生した雪印乳業の食中毒は、戦後最大級の1万4000人を超える被害者を出した。食品メーカーとしての安全管理無視、食品衛生法の改悪、大阪市の食品衛生監視員と環境監視員の統合と縮小、食品・環境衛生の監視業務、営業停止などの権限部分が昨年4月から24行政区にあった保健所を1箇所にしたことにより、各区の保健センターにないため敏感に対応できず、大阪市の公表が遅れ、被害を大きくしたと言える。
 保育所の待機児が全国一多い大阪市の保育行政の現状や昨年の北保育所廃止に続き新たに大道、矢田第2保育所の廃止提案など、これまで指摘してきたことから言えば、とうてい「市民の安全ネット推進体制を確保し、福祉、保健、医療分野における市民ニーズにきめ細かく対応するため、」と機構改革の理由には程遠い状況にある。
 少子化・高齢化社会への対応や高齢者施策の充実、児童虐待問題、ドメステック・バイオレンス問題など総合的な対策が求められている中、行政として総合的な連携による施策と運営が望まれることとして十分に踏まえなければならない。
 同時に、これまで述べてきたように今後の改悪された社会福祉法のもとでは、福祉サービスは、これまでの公的責任による「措置」をサービス提供事業者と利用者との直接の「契約」による「買い取る福祉」に変質させ、営利企業の福祉分野への参入を許した。今回の機構改革により、社会保障の最後の砦と言われる公衆衛生の分野までも市場原理にゆだね、競争を通じてサービスを提供するという営利市場化の道を開くものとなるのではないかと危惧するものである。利用者の人権を守るために公的責任をはたせる行政としての役割を明確にしていくことが求められる。

(3)都市環境施策推進組織の整備
 大気、土壌汚染等の環境規制部門と水質環境規制部門を一元化し、浸水対策等の都市環境保全創造部門と合わせて総合的な都市環境部門の構築を図り、もって国際集客都市にふさわしい環境に配慮したまちづくりを推進するため、下水道局と環境保健局環境部を統合して、都市環境局を新設する。
 
 環境庁は昨年7月に自動車NOx削減法の抜本的改正を公表、デイーゼル車の販売規制や有害物質対策、業者への排ガス消滅を求めている。しかし、公害患者らの抜本的改善策の要求に大阪市は今な
お「国と協議して」などとしており、市の責任・役割を放棄するかのような態度は改めるべきである。また、大阪市の医療助成を受けている喘息患者は増え、小・中学校でも全国平均を上回っている。
 大阪湾埋め立ては、環境基準をいまだに達成していない大阪湾の水質汚染を悪化させるなど、市民生活にさまざまな影響が及んでいる。これらの解決には、ダイオキシン等有害科学物質に対する規制を強化するとともに、根本的対策として廃棄物の減量化が必要である。
 昨年5月に「循環型社会形成推進法」が制定され、「循環型基本計画」の策定や個別リサイクル法の改訂・新設などの具体化が図られようとしています。しかし、プログラム法である基本法は、環境汚染の原因・対策の中心となる大企業の責任を明確にせず、自然の物質循環を対象としない、経済社会システムの中の廃棄物・リサイクルのみを対象としているなどの問題点を持っている。
 このような問題を大阪市独自に解決に向けて努力することが「環境に配慮したまちづくりを推進する」ことになることであり、こうした観点から機構のあり方について認識することが求められる。

(4) 大阪経済活性化推進組織の充実強化
 中小企業経営支援等の中小企業振興施策を積極的に実施するとともに、次代を担う企業・産業の創造基盤を充実することにより、大阪経済の一層の活性化を図るため、経済局経済企画部及び中小企業部を再編整備して、同局企画部及び産業振興部とする。
 
 昨年6月に大店法(大規模小売店舗法)廃止され、立地方(大規模小売店舗立地法)が施行された。大型店が出店する際に、大阪市は「地元自治体」から「法の運用主体」と大きく変わった。その権限を最大限に発揮して、必要な意見表明を行なうなど、野放図な大型店の出店ラッシュには歯止めをかける姿勢を明確にし、地元商店を守ることが求められている。
 また、1月にオープンした産業創造館は総合的な相談体制をめざすとしている。中小企業のニーズは未分化なものが少なくなく、縦割り対応ではその解決を見出すことはできないものである。総合的な相談と対応が可能な体制が構築されることが必要となるものである。
 IT革命の進行は、一面では大きな利便性を提供し得るもので、活用によっては中小企業のビジネスチャンスを広げうる可能性をもっている。しかし、「IT先進国」であるアメリカにおいても、ネット販売の全流通に占める比率は1%満たないのが現状である。中小企業の未来をITに託すことの限界を見極めながら圧倒的多数を占める中小企業の振興を根本にすえること、また一方でデジタル・デバイスの解消に着手することが求められている。
 中小企業への波及効果の期待できない巨大開発を見直し、個々の中小企業の経営に立ち入った支援を強化することが重要である。大企業、ゼネコン中心のムダな公共事業の発注を地元中小企業優先に切り替えることは、地域の活性化、雇用の拡大に効力を発揮し、景気回復にも通じる。
 これらの観点で組織機構のあり方と運営を求めるものである。

(5)市街地整備事業推進組織の整備
  一体的な市街地整備を効率的かつ円滑に推進し、魅力ある市街地形成を促進するため、都市整備局市街地再開発部門及び計画調整局まちづくり支援部門の一部を建設局に移管し、建設局区画整理部と再縞して、建設局に市街地整備本部を新設する。

 この10年、バブル時の地上げによるまちの破壊、産業構造改革にともなう巨大開発の破綻、さらに阪神淡路大震災の教訓など市街地整備を住民参加ですすめる課題は多い。「生野南部地区」事業のように老朽住宅立て替え、公共施設整備を市内各地で推進することが必要である。新設される市街地整備本部がそうした市民の期待に応えるものかどうか、検証をしていかねばならない。

(6) 住宅施策推進組織の整備(住宅局)
 多様で良質かつ安全な住宅供給の促進を図り、21世紀の豊かな市民生活の基盤の形成に資するため、計画調整局建築指導部を都市整備局に移管するとともに、都市整備局住宅部、計画開発部を管理部、企画部に再編整備し、都市整備局の名称を住宅局に変更する。
 
 1997年の大阪市住宅審議会は「今後の住宅施策の方向について」の答申を出し、「依然として続く子育て期の世帯を中心とする市外への人口転出への対応や、老朽住宅密集市街地の整備など、様々な課題が残されている」と現状分析した上で、今後の重点施策としては、良質な住宅供給のために「老朽市営住宅や公社賃貸住宅の建替えが必要」などとし、大阪市の住宅施策としては、新婚世帯向け家賃補助制度の拡充、マンション購入資金融資など展開してきた。市側のいう「市民生活の基盤の形成に資するため」という点から、今後、質の高い住宅の供給や高齢者や障害者の住みやすい住環境、災害に強い街づくりなど住民参加で推進するなど地域のコミュニティを形成する施策が必要と考える。街並みの形成という観点からは、従来の分散的・画一的な住宅地形成ではなくて、公共住宅及び民間住宅を総合的にとらえて良好な街並みの形成をすすめることが「住んでよかったと思う大阪市」を実現するために必要であると認識する。
 1982年の機構改革以前にあったように建築指導部を都市整備局に移管することは行政内部に技術的、総合力を蓄積すること、また、公共建物と民間建物を総合的にとらえて、良好な街づくりを住民参加ですすめる第一歩となりうるであろう。官民問わず災害に強い安心安全な建築物をつくっていく上で、建築指導行政の果たす役割が大きく求められるものである。政令指定都市の中で最低水準といわれる大阪市の建築指導行政を向上させるための必要な人員と執行体制を充実させる必要がある。

(7) 行政委員会事務局組織の再編
 監査委員と人事委員会のそれぞれの専門性と中立性を保持しながら、新たな行政活動の展開に対応した行政委員会運営を図るため、監査事務局と人事委員会事務局を統合し、監査・人事制度事務総括局を新設する。
 
 監査委員制度はこれまであまり十分に機能してきたとは言えない。これまでも数回にわたって自治法が改正されて、監査委員の力が発揮されやすいように制度がかわってきた。例えば身内で監査しているのではないか、という意見があり、自治体職員経験者の委員の数を制限してきた。また、監査委員の指揮の下に、実際の監査の仕事にあたるのは、その自治体から監査の事務従事を命じられた職員であり、本当に厳格な監査ができるのかどうかという疑問もある。最大の問題は、監査委員の監査した結果が広く市民に知らされていないということである。また、市長の政策選択そのものに踏み込むのを遠慮するために、実際には書類上のミスなどの細かい指摘だけがされる傾向にある。このような点から今回の機構改革でいう「新たな行政活動の展開に対応した」ものであるか見極めたい。

(8) その他
・財政局において、本市の入札・契約事務の一元化を進めるとともに、より一層厳正かつ公正な執行を頗るため、管財部の体制を強化する。また、管財部の名称を契約監理部に変更する。
・市民局において、新しい地域社会づくり、コミュニティづくりを進めるため、市民部の地域振興、ボランティア、NPO等市民活動部門を生活文化部に移管し、同部の名称を市民活動推進部とする。また、市民部の名称を市民生活部に変更する。

 行政のあり方をチェックすべき市会議員が市発注の公共事業の入札情報を市の担当者から聞き出し、特定業者に漏らした見返りに謝礼を受け取っていた事実は、根本的には公共事業を食い物にする政治体質にある。要は議員の圧力をいかに防ぐか、悪質な業者に対してもきっちり審査できる体制と要員配置にある。入札・契約事務の一元化も、管財部の名称を契約監理部に変更することもそれだけでは効果のないことを肝に銘じなければならない。市民局の地域振興、ボランティア、NPO等市民活動部門を生活文化部への移管、同部の名称を市民活動推進部に、また、市民部の名称を市民生活部に変更することも同様の観点から検証する必要がある。

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