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「大阪市役所問題」にみる公務員バッシングの実態

2006年2月 大阪市役所労働組合  成瀬 明彦


1.大阪市問題は「郵政民営化」と同様、小泉内閣と経済財政諮問会議によって周到に準備され、「小さな政府・自治体」の突破口にされた

 「郵政民営化」はすでに評論家の森田実氏の2005年政治日誌[230](05.8.10)「郵政民営化はウォール街のためか−米国から9.11総選挙の意味についてのメッセージ」や「文藝春秋」(05年12月号)のノンフィクション作家関岡英之氏論文「米国に蹂躙される医療と保険制度―警告リポート、奪われる日本」にもあるように周到に準備されていたことは明らかになっている。

実は大阪市問題も、2003年11月の関(現市長)公約の大阪市都市経営諮問会議構想(04.6第1回会議)の具体化と、国の経済財政諮問会議議員である本間正明大阪大学大学院教授の大阪市都市経営諮問会議座長への就任、関市長と協議した小泉秘書飯島氏に請われた大平光代助役就任によって本格化した。

伏線は「日経ビジネス」(04.8.30号)の「知られざる抵抗勢力 自治労」特集であり、MBSは都市経営諮問会議発足と同じ時期の2004年6月から阿倍野区役所への取材開始し、同年9月に同区のビデオ撮りを行っている。そして、同年11月23日の「勤労感謝の日」にMBSの報道番組「VOICE」で「民間のサービス残業支払わせる」というニュースの後に「残業もしていないのに超勤手当を受け取っていた阿倍野区役所職員」としてセンセーショナルに報道された。

ところで同年12月、朝日新聞にリークされ、市役所内では「大阪市問題」の核心でもあった条例化されていない「ヤミ一時金・年金」「ヤミ団体生命」は、市幹部などからも局長級管理職員から記者へ、分厚い大阪市予算書に付箋をつけて手渡された「上からの告発」と噂されている。

その後は1985年の国労攻撃以上の1年間にわたる猛烈なマスコミ攻勢があり、全国展開がなされ、2005年12月24日、政府の「行政改革の重要方針」閣議決定のモチベーションにされた。


2.ねらいは「小さな政府」「自治体構造改革」そして地方公務員の政治活動に規制を加え、一路日本国憲法の改悪への道をひた走るためにある

  2004年9月に大阪市役所労働組合(以後市労組)は、憲法・地方自治を生かし、希望ある21世紀をめざす市労組運動の目標と提言として「こんな大阪市と日本をつくりたい」(構想案)を発表した。

これまでの無駄な大規模開発や不公正な同和行政によって大きく歪められた大阪市政を改革し、住んで良かったと言える大阪市につくりかえたいという熱い想いを込めた提案であった。

しかし、この議論を職場内外で大いにすすめようという矢先に、阿倍野区役所と福島区役所の「カラ残業」問題が報じられ状況は一変した。同年12月に入り「ヤミ年金・退職金」問題が朝日新聞の一面にスクープされ、以後、連日の新聞・テレビ・ラジオ報道は加熱し、「職員の厚遇な福利」「労使癒着のヤミ体質」に対する市民からの大きな批判が沸き起った。

市労組のホームページには、ピークだった2004年12月から2005年5月までの半年間に4万5千件ものアクセスがあり、連合系の「市労連」と間違っての抗議メールが多数寄せられた。とりわけ、「市労連」の団体交渉や裁判所への仮処分申請などがマスコミで報道されるたびに、直ぐに怒りのメールが増えるというありさまだった。なかには、北海道の自治労加盟の単組役員から「自治労を辞めろ!」という「怒りのメール」まで送られてくる始末だった。また、市民の反応は、これまでの第3セクター赤字の穴埋めに何十億・何百億円のムダ使いをしたことに対する反応と比べてもすさまじいものがあった。「制服」問題を「背広の配布」という誇張したマスコミ報道もあったが「職員の厚遇問題」は市民の生活感覚で認識できるものだったからである。

  さて、この間の経過を振り返って明確に言えることは、「大阪市問題」の背景には、後で述べるように財界と小泉自公政権による公務員労働者への「総額人件費削減」攻撃、さらに憲法改悪を睨んだ自治体労働者の活動を縛る地公法の改悪問題が周到にリンクしていた。

「大阪市問題」は、自治省、総務省「公認」のラスパイレス指数高順位政令都市=大阪市で、「自治労」市職・市従を含む多数組合である市労連と市当局との歴史的な癒着問題であり、その産物が批判されたものであって、当初、言わば「対岸の火」としての認識が私たちのなかにあった。財界・自公政権にとってみれば、「大阪市問題」はきっかけ・口実であっても「小さな政府」問題の核心ではなかった。核心は、昨年末「行政改革の重要方針」が閣議決定したように、改憲・大増税で「戦争する国」作りへのねらいを背景にした、公務員総人件費削減の実行計画、市場化テスト、政府系金融機関の統廃合を盛り込んだ「行政改革推進法案」「公共サービス効率化法案(市場化テスト法)」の強行とその実践が狙いであった。

彼らの攻撃の矛先は国民生活への全面攻撃を前にすべての自治体労働者の生活と権利を抑圧することであり、闘う自治体労働組合への攻撃であったということを肝に銘じて反撃に転じなければならないと痛切に感じている。


3.大阪市都市経営諮問会議で「労働組合」「既得権益」問題を議論

2004年、「勤労感謝の日」のマスコミ報道も周到に準備されてきたが、大阪市自身の動きも同様だった。大阪市都市経営諮問会議はその半年前の2004年6月に設置され、関市長・大平助役と対立が表面化した本間正明阪大大学院教授が座長に就任する。

都市経営諮問会議では、本間氏から「官から民へ」という文書が出されるなど、NPM行革の手法を全面的に取り入れる議論がされ、それに沿った「関市長への提言」が2004年12月に提出された。提言の「都市・人の活性化」の項では、「行政主導で行ってきた福祉施策が市民の自律意識を低下させ、さらなる都市・人の活力の喪失につながるという悪循環をもたらした」と述べるなど、福祉切り捨ての理念があからさまに述べられていた。

都市経営諮問会議は、月1回程度開催されていたが、同年7月の第2回会議では「既得権益の問題」「労働組合との関係」が議論され、議事録には「改革をするには味方がいる。市民を味方にしなければ動かない。情報公開を思い切って進めていかなければならない」との議論が記述されている。

さらに、同年11月の第6回会議で報告された「行政能力の回復タスクフォース中間報告」には、「 給与・福利厚生についての見直し」について「マスコミ等で不適切な手当支給が報道されるなど、これまでも一部の職員に対する福利厚生面での支出が問題となってきた。そうした状況のなかで、大阪市の厳しい財政状況を強く市民に訴えたとしても、まずは給与や福利厚生についての見直しを十分に進めなければ、財政再建に真剣に取り組もうという意思が市民には伝わらず、むしろ市民の不信感をあおる懸念もある。市民の感情に十分に対応できるよう、給与や福利厚生事業への支出などについて直ちに改善・見直しを行うことが必要である。」とされ、その後のこれに連動したかのようなマスコミ報道の過熱と、市政改革本部の諸手当・福利厚生事業の切捨て方針を予感させる本音が見事に語られていた。


4.日本経団連奥田会長や武部自民党幹事長が「大阪市問題」に関連した重大発言

  2005年に入り、奥田日本経団連会長は記者会見(1月24日)で次の発言を行った。「今後、社会保障関連の歳出増大が見込まれる中で、他の歳出の削減を進めようとするならば、国および地方公務員の総人件費削減に手をつけなければならない。特に地方公務員の数や給与の問題について、日本経団連でもこの1年、検討していきたい」(経団連ホームページ)

  続いて、1月28日には、全国知事会の梶原会長(岐阜県知事)が「地方分権推進連盟」での講演で「一部の自治体でヤミ給与が問題になっているが、労組癒着、大衆迎合、リーダーシップの不在の自治体も自ら改革が必要だ」と述べている。(自治日報より)

  さらに、自民党の武部幹事長は2月28日の記者会見で「世間の常識を超えた労使の馴れ合いの実態である。報道された以外にも、様々な情報が寄せられている。……地方公務員法の改正や地方公営企業法の職員に関する政治的行為、選挙運動に対する法的整備を考えていく」と述べるに至る。

  これらの発言は、「大阪市問題」が単に全国版になったというにとどまらず、消費税増税の露払いとして地方公務員の賃金・勤務条件を全面的に改悪すること、さらに、憲法改悪の地ならしのために自治体労働者の政治活動に対して国家公務員並みの刑事罰を持ち込むことが露骨に示されたものといえる。また、2004年、社会保険庁職員が長期間の尾行・盗撮の上で、1967年の「北海道・猿払事件」以来の国公法違反で告発されたことと連動した重大な動きといえる。


5.大阪市の「厚遇な福利厚生」とは、なにが問題になったのか 

大阪市の「厚遇」問題としてマスコミに連日報道されていたものは、@超過勤務実態のない職員に残業手当を支給していたという「カラ残業」問題、A団体生命共済、確定給付型年金、制服の貸与、互助組合、健康保険組合など、職員の福利厚生活動に対する市当局の拠出金が社会の一般的な負担割合を超えているとする「厚遇」問題、B条例・規則にも支給根拠はあるが国から指摘を受けている特殊勤務手当・管理職手当問題などに大別できる。マスコミの報道では、市当局として条例化されてなかった「ヤミ退職金・一時金」などとの区別ではなく、「冷遇」の対極にあるだけで社会科学用語や哲学用語にもない、あいまいな「厚遇」問題としてそれらが、いわば渾然一体となって議論がなされた。その意味でも「厚遇」は絶妙な用語だった。それらの問題点について以下紹介する。

(1)市長や市幹部が責任を取らず、現場の職員にのみ責任を取らせた「残業問題」

まずは、「カラ残業」である。これは、「大阪市問題」のきっかけになり、職員を「犯罪者集団」とのレッテル貼りの根拠とされ、その後の「厚遇」批判に最大限利用された問題である。
しかし問題の本質は、住民サービスの第一線職場を軽視し、「使用者としての責務である労働時間管理」を完全に放棄した市当局による労働基準法違反事件なのである。

2005年3月30日には、市当局の調査結果にもとづいた第一次分6,331人、同年8月19日には第2次分1,593人の大量の処分が発表された。これに対し、処分を最も多く受けた区役所職場からは大きな怒りが巻き起こった。その怒りとは「責任を取るべき市長や市幹部がなんら反省の意を示さず、現場の職員にのみ責任を取らせ、個々の非行を戒める」という処分の方針に対してであった。しかし、市民のみなさんは、処分を受けた職員がなぜ「怒る」のか理解ができないと思う。

大阪市にはタイムカードがない。また、各区役所当局は、職員の労働時間の把握を全く行ってこなかった。同時に、職員は自ら超過勤務時間を申告する権利を基本的に奪われてきた。区役所では、各課・係に細分して配分された超勤予算をその範囲内で計画的に執行するため、1人の担当者が個々人の超勤実態とは無関係に一括して命令簿に記入し、その後本人が捺印するという習慣が長年続いてきた。その効果は絶大で、区役所の超過勤務手当の年間執行額は、予算額を毎年下回るという結果に繋がってきた。

どの区役所職場でも民生・福祉部門を中心にサービス残業の蔓延が問題になっている。読売新聞の記者は同窓生の大阪市職員について昨年7月13日付けで次のように書いている。「生活保護など社会福祉を担当するワーカーの市標準数は942人だが、実際にいるのは555人。その結果、連日、数時間の超過勤務を続けなければならなくなる。ワーカーに認められる超過手当は月2時間程度。手当のつかないサービス残業は月数十時間に及ぶ。激務に体調を崩して退職し、民間の介護施設で働き始めた同窓生はしみじみ言った。『役所の仕事は民間よりはるかに厳しかった』」と。

また、係長昇任者の元の職場は一年間その欠員が補充されないという前代未聞のルールもあり、そのしわ寄せによって、メンタルでの休職者は急増の状況である。そのような中で、サービス残業があっても全く放置するこのシステムは、予算管理をする側にとればまさに優等生であり、問題のある実務処理の実態を認識しながらなんら是正指導をしてこなかった市・局幹部の管理責任が本来問われるべきだった。

また、前述の「調査」は、この事実を隠蔽することを目的に行われ、実際の勤務実態が反映していない超過勤務命令簿と退庁簿の突合せを基本に行い、処分者を多数生み出すための作業、言わば大量の「犯罪者」を市民の前に突き出す作業を行ったというのが本質である。
このような本質を徹底して明らかにしていくことが、私たちに課せられた責務となっている。

(2)「厚遇」への批判を逆手にとり、福利厚生など法を逸脱した改悪攻撃

次に、「厚遇な福利厚生」問題、条例の根拠が乏しい、いわゆる「ヤミ」の制度の多くは、市当局と市労連(連合系)との間で、過去に支給されていた一時金のプラスアルファーなどを「転換」するという労使合意によるものであり、その具体化のための福利厚生制度検討委員会もこの両者で独占されてきた。

しかし、大阪市では「厚遇」への批判を逆手にとり、職員互助組合の負担割合について1対1なら当然との定説を踏み破り、一気に当局負担を「ゼロ」にすることを強行した。「1対0が当り前だ」とした上で、これまでの財産の切り売りなどまったく好き勝手な主張を押し付けようとしている。

自治体労働者の労働基本権制約と関連した規定として、地公法42条では健康増進、元気回復などの「福利厚生事業」を当局が責任を持って実施することが規定されている。また、雇用保険の適用除外となっていることをカバーする適正な制度が退職時の給付として必要である。このことすら否定する議論が横行し、大阪市以外の自治体の福利厚生事業が攻撃の対象に広げられている。冷静な議論と研究が緊急の課題だと痛感している。

さらに、係長級の管理職手当や現業職種の主任手当の廃止にとどまらず今年1月、市当局は特殊勤務手当・調整額の事実上の「全廃」をうちだしてきた。

それは、「著しい危険・不快・不健康・困難・特殊な職務」をわざわざ対象範囲を限定し、危険と不健康などにいたっては「当該職務の遂行にあたって、職員が相当の注意を払ったとしても事故等(著しい不健康の場合は健康障害)が起こる可能性が相当程度あり、かつ起こったときには生命や身体に重大な影響を及ぼすと認められる業務に限定する」とまで提案している。

提案の直近、昨年12月26日、アスベスト(石綿)が露出した下水処理場に勤務していた市職員が中皮腫で亡くなって市当局は1,700人の市職員の健康調査を始めた。これなどは労働安全衛生法からも特殊勤務手当支給以前に職場環境の改善をはかるべきで地方自治法がいう主旨を超えたひどい提案だと言える。逆説的にいえば給料表上で「厚遇」され、かつ「管理または監督の地位にある職員の職務の特殊性」にもとづいて支給される課長級以上の管理職手当が、市当局の特殊勤務手当見直し提案以上の「特殊性」があるとはとても思えない。

(3)総務相まで賞賛する公務員バッシングによる人件費抑制の手法

また、「大阪市問題」は周辺自治体にもおよび日替わりでマスコミと一部住民団体から攻撃された。中には不適切なものも含まれてはいたが、異常な攻撃は国労・動労つぶしに活用されたヤミカラキャンペーンの再現であった。げんに「犯罪者」を市民の前に突き出す作業を行った残業問題の市当局調査のきっかけは、一部住民団体が行った阿倍野区職員20名に対する「禁じ手」とも言うべき刑事告発だった。(その後、取り下げたというがマスコミ発表はなされていない)

2005年5月に開催された「第12回経済財政諮問会議」で麻生太郎総務相(現外相)が「集中改革プランのフォローアップや給与情報の公表システムを通じ、住民自治を原動力にするということが一番大事であり、総務省がいちいち介入するよりは、そちらの方がよほど効果があることは大阪市の例ではっきりしたと思っている。人件費の抑制を実施したい」と発言し、その狙いを明け透けに語っている。麻生氏がいう「住民自治」が何を指すかは定かではないが、大阪でいえば主観的な意図はともかく、一部市民団体がマスコミと一体となって、結果的に公務員バッシングをリードしてきた役割は否めない。


6.トップ・ダウンで、大阪市マニフェストと新行財政改革計画の実行すすめる

時系列でいえば、大阪市都市経営諮問会議が2004年12月に「関市長への提言」をまとめ、2005年4月、本間正明阪大大学院教授の解任などで都市経営諮問会議を解散し市政改革本部を発足、同年9月27日、市政改革本部「市政改革マニフェスト」(案)を発表した。そして同年10月、関市長が突然の辞任、再出馬表明し再選後、関市長は「選挙で改革マニフェストの信を得た」とし、同年12月、少しばかりの加筆補正を行ない、大阪市としての「市政改革マニフェスト」(案)を発表、そして今年1月12日、「局長・区長マニフェスト」「市政改革マニフェストにもとづく新しい行財政改革計画」(案)を発表した。

(1)関市長はなぜ辞職、再出馬したか

 ところで、関市長はなぜ辞職、再出馬したか。2005年10月17日、関市長はヤミ年金・退職金を自身が受け取っていた責任、解同系病院である芦原病院貸付金130億円と監理団体貸付金26億円の未回収問題の責任、3セクの経営破たんの市長責任を取るとして、突然、辞職したうえ再出馬することを表明した。この「辞職」劇は、単なる“みそぎ”のための個人プレーでなく、その背後に小泉「改革」と関西財界のねらいが隠されていた。

市長辞職が決まった翌日、「地方分権の推進は国全体の大きな流れだ。大阪市の“非常識”が地方への不信を増幅し、『分権の足を引っ張っている』との批判が強い」(読売)と書いたが、関市長の辞職と再出馬のねらいは、地方での小泉「改革」をすすめることを目的としたものだった。

 なぜなら、「オール与党」各党の混迷をよそに、関西経済連合会、関西経済同友会、大阪商工会議所などの関西財界の首脳がいち早く「市政改革の断行を期待する」、「市政改革の推進に対する関市長の並々ならぬ決意の表れ」などの談話を発表したことは、この辞職劇の背景を物語っている。 この間、一度出馬を表明した自民党市議が取りやめ、「民主党はずし」の力が強く働くなどの動きも、大阪市政を関西財界の意向と小泉「改革」にそった「都市再生」構想が貫徹できる体制づくりであることを明らかした。

再出馬によって“みそぎ”をうけたとして関氏は何を実行するのか、それは9月に策定した「改革」の名による財界本位・市民いじめの「市政改革基本方針案(マニフェスト)」を強行しようとする思惑が見え透いていた。

(2)市民生活施設の後退と市民サービスが削減される

 今年1月12日、「市政改革マニフェスト」にもとづき、今後5年間の財政再建策などを盛り込んだ「市政改革マニフェストに基づく新しい行財政改革計画(案)」を発表。同時に全24局・24区役所別の「局長・区長マニフェスト(案)」も発表した。翌日のマスコミは、「『反発覚悟』の大ナタ」(産経)、「改革の痛み 市民に転嫁」、「暮らしへの影響不可避」(朝日)の見出しで報道した。

市政改革マニフェストでは、「経常経費について2割削減(▲900億円)」「公共事業は5年間で▲1,100億円圧縮」「一般会計繰出金830億円について3割の削減(▲250億円)」と3つの予算で総額2,250億円の削減。さらに「監理団体の委託費2007年までに▲280億円」「公債発行の水準800億円を目指す(05年度1,981億円)」などの削減メニューが並ぶ。

そのうえ、市政改革マニフェストは、他都市に比べて職員が過剰だとして「職員採用をストップし、5年間で5,000人を超える職員数を削減」「大阪市立大学の独立行政法人化(約2,000人)により削減」「50歳から早期退職者制度を導入」など大幅な職員削減を打ち出した。

他都市との職員数比較は、正規職員数を人口で割った単純なものであり、どの部署のどこが「過剰」なのか、具体的に何も語っていない。生活保護世帯数に対する職員数は、大阪市は横浜市よりはるかに少ない。逆に、開発を担当する港湾局の職員は横浜市の2倍以上いるが説明責任を果たしていない。

(3)コスト削減だけを目的に民営化・民間委託化・独立行政法人化

市政改革マニフェストは「民営化・独立法人化など、事業点検を行う。現在分析中の事業、バス事業、環境事業、広聴相談事業、人権施策、健康福祉局(福祉関係事業、保健衛生関係、市民病院事業)、公園管理、文化集客、中小企業等への支援、中央卸売市場、食肉市場、市営住宅、営繕、道路適正管理、河川管理、市街地整備、港湾埋立て事業、高等学校、学校給食、文化財保護、高速鉄道事業、下水道(建設・運営)、保育所・幼稚園、水道(建設・運営)」と市役所の仕事を民間企業に丸投げする。

12月のマニフェストでは「環境事業、博物館・美術館等の文化施設事業については独立行政法人化を前提とし、また、バス・地下鉄事業については公設民営化を前提として作業を行う」と明記した。翌日の産経新聞で慶応大学の金子勝教授は「ごみ事業を下請けに出し『もうけの論理』が優先されると、分別収集などがきっちりできるのか。環境政策面がなおざりにされる心配がある」「『官から民へ』が呪文のようになっているが、バス・地下鉄事業(の公設民営化)も不採算部門の切り捨てにつながりかねず、住民から批判を浴びるだろう」「行政サービスについてあまりに無定見で驚く」(05年12月16日産経)と厳しく批判している。

「民営化」は効率が良くなり、コストを削減させ、財政再建に役立ち、市民負担が軽くなるかのような幻想を抱かせる。しかし本当のねらいは大阪市の財政負担を軽減することと合わせて、公共サービスを営利企業の金儲けの対象にする財界の要望を実現することにある。「官から民へ」ではなく「官から営利へ」なのだ。

(4)第3セクターを整理するというが、借金は残り、それでも開発は続く

「第3セクターの破綻について記述がない」という批判に応えるかたちで新マニフェストでは「第3セクターについても、バブル経済時の拡大成長を前提とした事業計画のもとに、過小資本・過大債務の財務構造で事業を推進し、その見直しを怠ったことから経営が破綻し、その再建に多額の本市負担を余儀なくされるに至った。そのため、今回の市政改革ではこの現実を直視し、まず『身の丈』にあった市政にしようということを念頭に置いている」と語り、逆に第3セクターの失敗を市民に押し付けた。

「第3セクターの破綻」とは、大阪市が筆頭株主であるアジア太平洋トレードセンター(ATC)、ワールドトレードセンター(WTC)、湊町開発センター(MDC)の3社は借金返済が不能になり、2004年2月に大阪地裁で「特定調停」が成立した。30年〜40年かけて会社を再建そのために大阪市の貸付金699億円のうち329億円を債権放棄し、104億円の追加出資、補助金として今後350億円を支出する。WTCやATC、MDCに大阪市関連の部局が入居し続けることになり、その家賃総額は1,835億円にのぼる。昨年6月にはクリスタ長堀の特定調停が成立、新たに大阪市が15億円の追加出資と100億円以上の損失補償を行う。同じく昨年10月には大阪シティドームの会社更生法を申請し、大阪市の損失は108億円。管財人は大阪市に補助金(年間1億2,400万円)、固定資産税の減免(2億8,000万円)といった年間約4億円の財政支援の継続を要請した。

この他、6つの土地信託事業も破たんした。総額で1,400億円余(04年9月末)まで膨らんでいる。

また、此花区の人工島・舞州には、ゴルフ場、高級ホテル、五輪スタジアム、人工スキー場など、大阪市はバラ色のスポーツアイランド構想を描いた。しかし、五輪開催に失敗しため、計画も破たんした。舞州の開発を担った第3セクター「大阪港スポーツアイランド」も今年3月に解散する方針である。不公正乱脈な同和事業もまた破たんした。民間の医療機関「芦原病院」を運営する浪速医療生活共同組合が昨年12月に大阪地裁に民事再生法を申請した。大阪市の無担保融資130億円の債務免除を要求され、関市長は応じる構えである。昨年6月、「芦原病院」が都市銀行から運転資金2億円を無担保でかり、市側が「市が責任を持って返済させる」とする担当局長名の「借入金返済確認書」を銀行側に交付した。法律で禁止されている事実上の「債務保証」にあたる。

しかし、それでも開発は続いている。2004年7月に大阪港がスーパー中枢港湾に指定されたことで、大阪市は舞州に新たなバースC12早期完成と夢洲トンネルの整備を表明。スーパー中枢港湾の整備に1,000億円が計画されている。さらに阪神高速淀川左岸線第2期工事、大阪駅北ヤードの開発はあくまで推進する。関市長は「オリンピックはあきらめておらず、時期を見て手を挙げる」(04年8月)とまで言う。

(5)「時代遅れの地方公務員法、地方自治法などの抜本改正」求める市政改革のブレーン

大阪市都市経営諮問会議座長の本間正明阪大大学院教授が去った後、NPM型大阪市改革を中心的にすすめてきた市政改革本部の上山信一慶応大学教授はもともと、運輸省に勤めその後アメリカの総合経営コンサル会社マッキンゼーの共同経営者となり、福岡市などの行政経営にかかわってきた。同氏は自身のホームページ「コラム・上山信一の『続・自治体改革の突破口』」のなかで、関氏と改革マニフェスト案を「支持したからには財界も責任を負う。12月からは財界人を交えての新生『都市経営会議』が始まる。その場を通じて市政改革をガイダンスし、監視しなければならない。また、市政改革本部にも民間の人材を供給しなければならない」と求めている。同じく、竹中総務相や自公が関氏を応援した以上、「政府は大阪市役所を全面支援しなければならない。具体的には時代遅れの地方公務員法、地方自治法、さらに独立行政法人関係の法令の抜本改正が必須である」とまで言い切っている。


7.行革推進法や市場化テスト法の通常国会上程にはずみをつけた小泉内閣

期しくも市政改革本部が「市政改革マニフェスト」を発表した2005年9月27日、国の経済財政諮問会議で、小泉首相は公共サービスの担い手を民間との競争入札で決める「市場化テスト」導入のための法案を、2006年の通常国会に提出する考えを示した。

そして3ヵ月後の12月24日、政府は「行政改革の重要方針」を閣議決定し、国家公務員(68万7千人)を5年間で5%以上純減することとあわせ、地方公務員(308万3千人)についても新地方行革指針(05年3月29日)で示した4.6%以上の純減の「一層の上積み」をうたった。そしてこれらを推進するために、2月上旬に「公共サービス効率化法案(市場化テスト法)」を、3月中旬をめどに「行政改革推進法案」を通常国会に提出するという。

日本経団連は、これに先立つ2004年11月16日に発表した「2004年度規制改革要望書」で「市場化テストの早期・確実な実施」を求め、実施のための特別法を2005年中に制定することを要請した。地方自治体に対しても「民間に開放すべき事務・事業は、中央省庁以上により多く存在する」として早期に対象化するように要請していた。

大阪商工会議所も同年11月25日に、「地方自治体における公共サービスの民間開放に関する提言」建議を発表した。それには「大阪府・大阪市における市場化テストの早期実施と、経済界参画による推進組織の設置」を要求している。建議では、大阪府で565事業、大阪市で344事業を「民間開放が可能と考えられる事業」としてとりあげている。

(1)「公共サービス効率化法案(市場化テスト法)」とは何か

「市場化テスト」の考え方は、@「民間でできるものは官は行わない」ことを基本とすべき、A官の関与が必要な事務・事業でも公務員ではなく極力民間に行わせるべき、B公務員が事務・事業を行うことの妥当性の立証責任は官が負うべき、C外郭団体等による形だけの民営化になってはならない、という驚くべきものである。

「市場化テスト法」は、公的建物管理の限界、法規制で創意工夫が発揮できないPFI制度や、例えば図書館法に制約され国も実施したいができない指定管理者制度、1自治体だけで全国展開できない構造改革特区制度という既存制度の限界打破を狙い目にしているという。また、「市場化テスト法」は、これまで学校、医療など個別に株式会社参入させてきたが、すべての官業を対象とする横断的手法がとれるという。

(2)憲法上も疑義のある「公共サービス効率化法案(市場化テスト法)」

しかし、公務の縮小・民間化の強引にすすめる「市場化テスト法」は、憲法上の限界があると考える。神戸大の米丸恒治先生は、国民主権との関係で「国民主権原理からみて、公権力の行使は国民から信託を受けた国家が独占すると考えるべきで、それを民間に委ねることは憲法上制限される」といわれている。

国民の生存権・社会権の保障と国の生存権・社会権保護義務からみて、「民間開放」そのものが憲法違反ではないのか。国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関(憲法第41条)が自ら違憲立法を決めていいのかという疑問が生じる。もともと、生存権・社会権にかかわる労働を、憲法15条がいう「国民の信託」にもとづき、国民の福利の実現のために奉仕すべき「国民全体の公務員」として担ってきた。これらは市場原理、自由競争と相容れないものだと考える。

日本国憲法は、国民の福利ないし権利の実現にとって必要な事務・事業は、国や地方公共団体の「公務」として原則として「公務員」の手によって行われるべきことを予定していると見ることができるのではないか。


8.「ヤミ専従」批判から、労働組合活動への全面的攻撃に移行

最後に時間内組合活動が、いわゆる「ヤミ専従」批判として政治問題化している現状について触れる。

大阪市では1966年にいわゆる「ながら条例」が制定されていたが、細部にわたる規定は整備されないまま今日にいたっていた。それは、この40年間、助役出身の市長候補を労使一体で当選させるため「市役所ぐるみ選挙」を展開し、その手足に労働組合・組合員を使ってきたこと、その見返りとして無原則に専従役員が黙認されてきた、この責任は市当局自身にある。さらに、「連合」労組は特定の政党や候補者を労働組合が推薦し、組合員を時間内外で動員してきたという労働組合自身の問題がある。いずれも思想信条の自由を侵害するという憲法違反の行為であり、それぞれの責任を明確にしたうえで改めるべきことであった。

しかし、そのような当局責任の明確化を一切行わず、「本年(2005年)1月から4月までの実態調査」とその結果にもとづく「129人」の「問題ある組合専従」を発表した。一方「連合・市労連」は当局発表の直後に「反省」と「賃金の自主返納」を表明し問題の終息をめざした。しかし、自民党市議団はこの結果を不充分として、@組合事務所の便宜供与、庁舎の目的外使用禁止、A組合費のチェックオフ禁止、など引きつづき政治問題化する構えをとっている。

組合事務所は市当局との折衝の事前会議を開催するためにも、また、職場における日常的な活動に敏速・適切に対応するためにも、厚生活動や労働安全衛生活動を行うためにも必要である。また、「適法な交渉の準備行為」としての機関運営などは、市当局にとっても労働組合との交渉および妥結のために不可欠なものであり、組合自身にとって、組合民主主義を貫くためにもっとも大切なものである。市労組は、このような労働組合の存亡にかかわる攻撃に対して毅然としたたたかいをすすめている。地方公務員の政治活動への刑事罰の導入問題ともからめ予断を許さない事態が続いている。


9.市民とともに真の大阪市改革をめざすとりくみをすすめる

今年1月12日に大阪市が発表した「市政改革マニフェストに基づく新しい行財政改革計画」(案)には、地域経済をどう回復して税収を増やすのか、どう市民の所得を増やして福祉の経費を削減するのか、そんな考えは一切ない。

今、市民が求めているのは、崩壊しつつある生活基盤の回復、福祉・教育の充実である。大阪市の生活保護者は全国最多の10万人をはるかに超える。生活保護費は全国の1割を超えている。小中学校の就学援助の受給率は1995年度13.4%から2005年度(見込み)34.3%に急増した。市内の工場や商店の数も減少を続けている。地元企業を支援し景気の回復と雇用の拡大を図ることが経費の削減と税収の増加につながる。一部の強い企業のみを支援する大阪市「改革」は、地域経済を冷え込ませて税収も落ち込ませることになる。

市労組は、加盟する大阪市労働組合総連合(市労組連)とともに大阪市との交渉を行ってきた。その内容は市労組や大阪市役所のホームページに掲載されているが、市当局と「市労連」との労使癒着を批判し、関市長や「改革本部」によるトップダウンにも厳しく注文をつけてきた。いずれもが大阪市改革の内なる主体である職場の労働者を信頼せず、誇りを傷つけるという根本的な問題点を持っている。また、「連合」労組のこの間の対応は、市民の反感を買い、財界・政府の全面的な攻撃に絶好の口実を与えるとともに、すべての課題で、市当局の思惑(幹部職員は責任を取らず、現場の職員に責任を転嫁する)に同調する迷走状態に陥っている。

その中で、大阪市の労使関係は、劇的な変化を遂げ、新たな闘いに突入している。市労組が、職場の労働者の良心を結集し、要求・意見をしっかり受け止めて闘うことこそ求められており、我々の真価の発揮のしどころであり、正念場を迎えている。

「大阪市政改革本部」によるトップダウンの「市役所改革」は、NPM行革を強行する体制を強めている。その外部委員のメンバーには、JR西日本の幹部職員が幾人も入っていたが、尼崎の脱線大事故の後、それぞれ辞任している。もし、事故がなかったら、JRの効率化優先で利益を上げてきた実績を大いに宣伝し大阪市に取り入れるよう圧力を加えたことであろう。私たちにとって、人命を犠牲にする安全軽視・利益優先のJRを反面教師にしたたたかいが必要になっている。

私たちは、まず、大阪市が行う施策の意思決定過程も明確にする徹底した情報公開を要求する。

また、職員の「厚遇」批判の報道以後、マスコミも全く取り上げなくなった、財政赤字の根本の原因である第3セクターや大規模開発破綻への市税投入を止めさせること、そして、同和行政=人権行政の歪みをただすたたかいなど、市民とともに大阪市改革をすすめるための運動に参加していくことを表明している。

今、大阪市がすすめる「改革」は、「自治体職員のあり方をかえる」攻撃である。市民の願いを受け止める全体の奉仕者から、市民には「効率化」を押し付けて当局・財界に奉仕する職員に変質を迫っている。しかし、市政改革=市民リストラであることが市民にも分かりやすくなっている。

児童館・勤労青少年ホーム廃止に子どもや保護者から驚きと不満が出ている。敬老パスの改悪に反対する市民運動は、マニフェストに掲げられた「一部自己負担」(有料化)をやめさせ、無料継続を勝ち取っている。市政改革について自分たちの仕事の意義と内容、働きがいを語ることを重視し、行政区でのタウンミーティングの実施など、市民の中に出ていくことをぜひ実現したいと考えている。また、市労組が発表した、憲法・地方自治を生かし、希望ある21世紀をめざす目標と提言「こんな大阪市と日本をつくりたい」(構想案)を市民に持ち込み、市民的討論を呼びかけようと思う。

この構想案は、これまでの無駄な大規模開発や不公正な同和行政によって大きく歪められた大阪市政を改革し、住んでよかったと言える大阪市につくりかえたいという熱い想いを込めた提案であった。

これらのとりくみも含め、報告・発言を求められればどこにでも参加することを表明してとりくんでいる。「住んでよかった・住み続けたい街大阪」にしていくため、職場のなかに、市民のなかに積極的に飛び込んで全力をあげて真の大阪市改革の実現にとりくむ決意である。
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