|
NPM行革により公的施設はどうなっていくのか(指定管理者制度を中心に)
−福保労市社協分会自治研集会分科会報告− |
大阪市役所労働組合 行財政部長 田所賢治 |
市民と職員犠牲の行財政改革案(1月12日発表)
1月12日に発表された大阪市行財政改革案は、「市政改革マニフェスト」にもとずく「局長・区長マニフェスト」をとりまとめたもので、市民を顧客とする「NPM行革」を推し進めていくものとなっています。
内容については、梅田北ヤード整備や大阪湾での水深バース、夢洲トンネルの建設、さらに阪神高速淀川左岸線第2期工事などの大規模開発への無駄使いは続ける一方で市民生活と職員へのリストラを押し続ける大変な内容となっています。リストラの具体的な中味は、上下水道料金の福祉減免、重度障害者給付金、新婚世帯向け家賃補助などの廃止、粗大ゴミの有料化、保育所保育料の見直し、児童いきいき放課後事業の効率化、等、ズラリと並びあげられた市民負担の強化と、青少年ホーム、児童館、労働会館など市民のコミュニティの場である施設もバッサリと廃止するとともに、厚遇問題を利用した人件費削減として、区役所機能を解体する市税事務所構想、市立大学の独立行政法人化、施設や業務の民営化、民間委託化、5年間の新規採用者の凍結などで、約7000人の職員削減を実施するとしており、第一線職場の職員に対する労働強化と市民サービスの低下をもたらすものとなっています。
大阪市の進める「NPM行革」の本質は
「NPM行革」は、財界がもとめる小さな政府づくりにもとづいた、財界主導の改革であり、小泉構造改革の地方自治体版と言えます。公務職場を資本の市場化とするもので、市民を顧客、市民をもうけの対象とした考え方で、公的サービスを商品として提供していくものとしており、もうけの対象となる業務、施設などの民営化、民間委託化を押し進めるとともに、負担の公平化を理由に福祉、医療などの施策の廃止や削減も押し進めるものとなっています。
「NPM行革」の特徴は、今までの古い官僚体制(大阪市では、連合労組幹部、オール与党、市当局との癒着によるトライアングル支配)から、少数のエリート官僚(企画担当)や市長がトップダウンで強引な施策を強行していくため、いままで以上に、市民や現場職員の声は反映されません。また、トップダウンのため、議会も形骸化されていく傾向となっています。そして、トップダウンの施策を続けていくためには、マニフェストの発表は必ず必要なものとなっています。
大阪市では、市政改革本部(財界と国の意向による、メンバーで構成されている専門委員会)と有識者会議(財界の代表により構成されている外部評価機関)の意向を本部長である市長がトップダウンで進めていく内容となっています。市政改革本部員であり改革委員会の政策的なリーダーである上山信一(慶応大学大学院教授)氏は、運輸省からマッキンゼー日本支社(コンサルタント会社)へ転職し共同経営者という立場にあり、大阪市を「NPM行革」の全国のモデル都市(サンプル)と位置付けて改革を進めているようです。大阪市を踏み台にしながら、今後、全国への事業展開を考えていると思われます。
NPM行革の一つの道具(ツール)である指定管理者制度
指定管理者制度とは、地方自治法の公の施設に関する規定を改正し、株式会社などの民間事業者が「公の施設」の管理を「代行」させることを可能にするもので、民間企業と直営や事業団を競争させ「指定管理者」として指定された企業などが、その施設を使っての新たな事業展開を認めるものとなっています。
地方自治体には、06年9月までに直営か指定管理者制度かを選択することが求められており、現在、事業団に委託されているほとんどの施設が、今年の4月から指定管理者制度の実施となる予定です。大阪市でも3月議会において、多くの施設の施設管理者が選定されることになっています。
※ 管理者の選定は「複数による公募」が原則となっているが、「公募」の義務付けは無く、市長による指名の場合もあります。
※ 行政の権力的作用の行使を指定管理者に与えています。たとえば、施設の使用許可、施設の利用料金の設定などです。公共から資本化(サービスの商品化)へシフト化が進みます。
※ 規制緩和により図書館、公民館なども対象施設になっています。
※ 保育所は児童福祉法により市長の利用料金の設定や徴収権限、市町村の利用許可権限は指定管理者に移すことができないことになっており、大阪市では民間委託化を進めています。
大阪市での指定管理者制度は
大阪市では、青少年文化創造センター(大阪市青少年活動協会)、市立阿倍野防災センター(大阪市防火管理協会)、西・阿倍野屋内プール(株ウェルネスミズノ)、都島屋内プール(財フィットネス21)、浪速屋内プール・スポーツセンター(MLK連合体、三菱ビルサービス等)、鶴見区民センター(区コミュニテイ協会)など、04年2月から新設されている施設は指定管理者制度で委託されています。
既存の施設では、04年4月に同和地区にある9ヶ所の老人福祉センターを公募せず市長の指名選定により人権協会に、05年度には、スポーツ10施設、北・此花・生野・東住吉スポーツセンター、中央・生野・城東屋内プール、扇町・下福島・長居プールを公募により、クリエイテブライフ(鹿島グループ)、グンゼスポーツ、コナミスポーツに指定管理者として委託しています。スポーツ施設は委託により年間3億7000万円の経費節約が可能と発表されていますが、先の老人福祉センターでは、同和団体への特権温存との批判もでており、市会でも委託費が割高だと指摘されています。今回の行財政改革案に同和地区以外の老人福祉センターの在り方についての具体案が、いまだに示されていないのは、同和地区、老人福祉センター批判との関係があるのではないかと思われます。
スポーツ施設の指定管理者の委託に関しては、市労組のゆとりみどり振興局分会の努力もあって、条例化のさいに、施設の安全・利便・快適・価格などの施設利用者に対する公共性、公平性を守る内容での意見反映を行い、その内容を一定反映させています。しかし、委託先の民間事業者からは、施設の弾力的な運用が可能となるような内容への変更要望がでていることも事実です。
これからの指定管理者制度と問題点
改革マニフェストによれば、06年度からは、104施設を公募による指定管理者へ委託検討しており、すでに公募は終了しており、3月議会で選定承認されることになっています。
また、非公募の施設は120施設としており、現在の委託先に指定管理者として委託されることになっています。おもに福祉施設や博物館、地域コミュニティ施設など、今までの経験や専門性が必要とされている施設と、世界陸上大会が開催される長居陸上競技場などの関連施設となっています。
問題なのは、非公募(公募の場合も有り)などで、そのまま、委託先の財団などに継続指定されたとしても、委託料は削減されていくということです。改革マニフェストでは、3割の削減が可能と発表しています。施設経費のほとんどは、人件費となっていることから考えると、必ず人件費の削減がおこなわれていくと思われます。大阪市公務公共労組に相談があった大阪市立クラフトパークの場合では、教育振興公社にそのまま委託されることになりましたが、非常勤の嘱託講師の賃金削減案が提案されているようです。
また、委託先の民間事業者が採算性を理由に事業から撤退した場合は、住民が安定的に自治体施策を受ける権利が保障されない事態が起こりかねません。このことは、介護保健制度発足後の北海道自治体において、介護事業者コムスンが撤退した例などを参考にすれば、すでに明らになっていることだと考えられます。
さらに、大阪市では、同和関連施設(人権文化センター、青少年会館等)や舞洲などの開発関連の施設(なにわの海の時空館、舞洲体育館・運動広場等)は、利用者や利用率が少ないのにもかかわらず、施設として温存されているにもかかわらず、市民利用の多い勤労青少年ホーム25館や子どもたちの安全な遊び場である児童館10館など、年間100万人を越す市民が利用している市民に身近な施設を廃止するという暴挙に出ている事です。
市民とともに公的施設をまもる運動の重要性
いま、全国で進められている保育所の民営化、民間委託化では、民営化により、保育所に働くほとんどの保育士が変わってしまい、保育所運営のスムーズな引継が出来ておらず保育所内で混乱が起きています。具体的には「子どもが園外や保育士の目の届かないところへ脱走する事件が発生」「経験の浅い先生が増えて余裕がないので、保護者が相談できない」「園内での子どもの骨折など、大きな怪我が増えている」など見逃すことのできない事態が起こっています。
このような強引なトップダウンによる民営化に対して、大阪市では、委託予定の保育所保護者会が委託撤回の要請を粘り強く大阪市におこなっています。また、横浜市では、保護者会により訴訟が提起され、係争中となる事態が起きています。
4月から政令市となる隣町の堺市では、市立図書館10館に指定管理者を導入していく計画を発表しましたが、「市民の図書館」が企業に売り払われてしまうのではないかとの危機感のもと、市内の子ども文庫、図書館友の会、読書会、おはなしサークルなど、今まで図書館を支えてきたさまざまな市民が活動を開始し、短期間に1万5000筆を越える署名が提出されるなど、図書館民営化反対の声が広がり、05年4月からの指定管理者制度の導入は見送られています。
このように施設利用者や施設周辺の住民に公共施設の大切さを訴え、「施設の公共性を守る」ことで一致した、住民との共同した運動を広げていくことが今、求められています。
大阪市の勤労青少年ホームや児童館でも廃止提案があった後、多くの施設利用者から「廃止する理由がわからない」「地域の大切な施設を残してほしい」など多くの声が大阪市当局に寄せられています。その声が大きくなるなかで、大阪市の態度も変化してきていると聞いています。もっと多くの市民に施設廃止の問題点や本質を知らせていく必要があります。
公的施設の公共性を守るために
公的施設は、人で構成されていると言われるように、施設の専門性や経験、地域とのつながりなどを保障する、施設で働く職員こそが、その施設における財産であると考えられます。民営化、民間委託などのアウトソーシングにより、施設で働く職員が、その施設から、いなくなってしまうということは、極端に言えば、その施設の公共性が否定されていくことになると言えるのではないでしょうか。
どんな場合でも、施設で働く職員が、その施設に残り働き続けることの保障こそが、地域に根ざした公的施設を存続するカギになると思われます。地域住民と一緒に「在って良かった」といわれる施設づくりを進めるとともに、その施設で働く非正規の職員も視野に入れた、労働組合への組織化もおこない、労働組合を強化していくことも必要ではないかとも思っています。
地域のなかで住民とともに歩む公的施設作りと、そこで働く施設労働者の労働条件の確保は、うまくは言えませんが、車の両輪と言える関係ではないかと考えています |
>>政策・提言のトップに戻る |
|