「職員(保育士、幼稚園教員)の給与に関する報告」について(質問・意見)
貴人事委員会は昨年12月25日に「職員(保育士、幼稚園教員)の給与に関する報告」を行いました。
私たちは昨年9月18日に貴人事委員会が「職員の給与に関する報告及び勧告」を発表した際、橋下市長による「保育所・幼稚園さらには現業職場の民営化を方針とし」「そこで働く職員賃金の引き下げを主張していたことを受けた調査」であり「民間の職場では働き続けられない労働条件のため若年の職員が多く、賃金が低いのが実態です。従って調査の目的はこれらの職種の給与の引き下げにある」ことを指摘し、人事委員会として「公務員労働者の権利擁護機関として賃下げにつながる安易な結論にならないよう強く自制を求める」立場を表明してきました。
以上の基本的な立場やこの間の職場討議を踏まえ、以下の意見及び質問を提起いたします。
1. 大阪市立の保育所・幼稚園の実態を正確に把握し、社会的な役割や専門性に見合った賃金・労働条件に改善することこそ必要です。
大阪市立保育所では昨年4月に必要な職員が確保できず欠員状態で新年度を迎えるという異常事態が発生しました。保育所は子どもの生命と健やかな成長を保障するところです。しかし、不十分な職員配置によって乳幼児の死亡という悲劇が全国で多く発生していることを直視しなければなりません(平成16年4月から24年12月末までで、死亡事故124件)。また、保育士の頸肩腕症候群などの職業病が発生するという問題も存在しています。
このような欠員という異常事態が発生する原因は、橋下市長による保育所民営化方針により正規職員を採用しなかったこと。それに代えて募集した任期付職員の労働条件が余りにも劣悪なためです。
大阪市立幼稚園では、民間では当然配置されている事務職員が配置されておらず幼稚園教員が事務作業を行うなどの負担があり、その結果として長時間労働の実態が生まれています。
また、民間園とは違い配慮を要する幼児の入園を受け入れているため、その支援を行うために負担が増すのみならず専門性も求められています。この点では大阪市立保育所も同様の課題を抱えています。
私たち市労組連はそういう状況を踏まえ、昨年12月25日に大阪市当局に対して以下の改善要求を行いました。
@ 休憩時間が取れないという労働基準法違反の是正
A 初任給基準の引き上げ(初任給調整手当の支給など)
B 所長・園長の重責に応えた処遇改善(他都市では課長級・課長代理級に処遇している)
保育所・幼稚園は子どもの命を預かり、健やかな成長を保障する極めて重要な役割を担っています。その重要性を踏まえるならば人事委員会として単に賃金面の比較を統計的に行うのではなく、保育所・幼稚園を実地に見学するなど職場実態を正確に把握するべきです。
また、その社会的な役割や専門性に見合った賃金・労働条件とは何かを考慮し、改善するためにとりくむことを強く求めます。さらに、任期付職員の処遇改善に向け直ちにとりくまれるよう求めます。
2. 民間保育所・幼稚園の労働条件の底上げこそ必要であり、それを前提にした公務の賃金引下げは誤りです。
民間保育所でも保育士の確保が非常に困難になっています。保育士の養成学校では生徒一人に対して10件の求人が殺到していることがマスコミで報じられるなど社会問題となっています。
その主な原因は、仕事の責任の重さと労働条件の劣悪さにあることは明らかです。保育士をめざし学校に通うものの保育所での実習を受け、厳しい労働実態を経験し、資格を取得しても保育所への就職を希望しない若者が多く存在することが指摘されています。厚労省が行った「保育士資格を有しながら保育士としての就職を希望しない求職者に対する意識調査」によれば「責任の重さ・事故への不安」とともに賃金に低さ、休暇が取りにくいなど仕事の重責に比べ賃金・労働条件が劣悪であるとの回答が寄せられています。
貴人事委員会の「報告」でも、大阪市内の民間の保育士や幼稚園教員の人員構成において20歳台が「半数以上」「7割」であり、勤続年数ではいずれも8割以上が10年未満であり「若年層が中心で、人材の流動化が激しいこと等が推察される」としています。これは民間の保育所・幼稚園における労働条件の悪さに起因していることを示しています。
今、ブラック企業が社会問題となり「離職率」が一つの物差しとして提起されている状況のなかで、民間の保育所・幼稚園の実態はブラック企業と規定されてしかるべき酷い実態であり、直ちに労働条件を改善し職員の処遇改善こそが求められています。
ましてやこのような民間の実態に無批判に合わせることは誤りだと考えます。
3.労働基本権の代償機関・公務員労働者の権利擁護機関としての役割発揮を求めます。
冒頭述べましたように、貴人事委員会による今回の「報告」は、橋下市長による幼稚園・保育所民営化の方針と関連した賃金削減の要請に迎合し、民間の劣悪な賃金・労働条件を無批判に前提としながら賃金削減につながる報告を行ったものです。
「報告」の冒頭には「昨年7月に策定された本市の市政改革プランにおいては、保育士等の給与について民間の同種の業務の従事者との均衡を考慮した適正な水準にしていくことが掲げられている」こと、また独自給料表を作成すべきかどうか等を検討するための調査であることが述べられています。
確かに「市政改革プラン」が策定され、それによるとりくみがすすめられていることは事実ですが、個々の施策について市民の合意が得られているわけではありません。現に幼稚園の民営化条例は先の市会でも多くが否決されるなど市民の批判が顕在化していることが明らかになっています。中立機関としての人事委員会がなぜ現市長の意向を受け、民営化の地ならしとして、他都市にも例の無い「独自給料表」の作成に向けた意見を表明するのか疑問を呈するものです。
また、人事委員会は日本国憲法に規定されている労働基本権を公務員労働者に対して制約するための「代償機関」だと自ら述べています。そのことから公務員労働者の労働条件改善に向けたとりくむことを本来の任務とするものであり「公務員労働者の権利擁護機関」です。
この役割・立場を完全に放棄し、労働組合や職員の意見を一切踏まえることなく、使用者からの意見を一方的に受けた「報告」には重大な問題があると考えます。
大阪市で働く保育士・幼稚園教員は、大阪市職員そして地方公務員として職務に専念し、その専門性を高めてきました。今回の「報告」は、それら保育士・幼稚園教員のこれまでの努力と尊厳を傷つけるものであることを最後に指摘するものです。
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