貴委員会は昨年12月25日に「職員(保育士、幼稚園教員)の給与に関する報告」を行いました。私たちはそれに対する問題点の指摘を含めた「質問・意見」を1月14日に提出し、23日付で貴委員会の回答を受け取ったところです。
その回答には「本市の保育所及び幼稚園の運営に支障をきたすことのないよう、保育士及び幼稚園教員が担っている職務の重要性やその処遇確保の観点からの検討も必要である旨、言及しています」「職務の重要性、処遇確保の必要性、他都市の状況なども考慮の上、検討する必要がある」と「報告」で述べていたことを強調していました。この部分だけを捉えれば安易な賃金引き下げに歯止めをかける意図があったとの解釈もできますが、11月に市当局から提案された保育士・幼稚園教員の給料表の内容は、行政職や小中学校の教員の給与水準から切り離し、大幅な賃金引き下げとなるもので、重要な職務を担う公務員の賃金水準とは明らかに異なったものになっています。そして、これらの給料表を提案している人事室や教育委員会は「人事委員会の報告に沿ったもの」だと繰り返し表明しています。
このような状況を踏まえ、以下の内容について貴委員会の見解を求めるものです。
1. 直営堅持の必要性と矛盾する、民営化推進のための賃金引き下げ
橋下市長は、11月27日(木)の登庁時記者会見で、「今の人事院制度、人事委員会制度は完全に虚構です。国民がだまされている」「今の人事院制度、人事委員会制度が、官民給与比較メカニズムが狂っている」「きちっと改めれば総人件費が2割くらい削減ができる」と発言しています。これは人事院勧告制度への攻撃であるとともに、公務員の賃金水準が低ければ低いほど良いとする立場に立っていることを示しています。
また、この「調査」「報告」が行われるきっかけが、橋下市長が「民間にも同種の職種が存在する保育士や幼稚園教員等(中略)職種独自の給料表を作成すべき」と指摘したこととされていますが、橋下市長が党首の大阪維新の会の方針は大阪市立の保育所・幼稚園を完全に民営化することです。民間なみの賃金水準に引き下げることによって民間企業が買収しやすい条件を整えることが真の目的であり、これに沿えば「独自の給料表」を適用される職員・教員が消滅することを意味します。
人事室や教育委員会から提案されている給料表の大改悪提案がもし実施されれば、新たな人材の確保が出来ないばかりか、退職者が増え職場の体制は崩壊しかねません。今でも欠員状態となり子どもの入所定数の削減で「調整」するという状況になっている保育所ではさらに危機的な状態になることは明らかです。
貴委員会の「報告」でも障害をもった子どもを受け入れ、深刻な課題を抱える家庭への支援を行うなどセーフティネットとしての市立保育所や幼稚園の役割が強調されています。また、幼稚園は市会において民営化条例案が二度にわたって否決されており、今後も市立として運営されていくことは明らかです。にもかかわらず今回の給料表の大改悪提案が市立保育所・幼稚園の存立基盤そのものを掘り崩すことになり、貴委員会が「本市の保育所及び幼稚園の運営に支障をきたすことのないよう」に述べ、直営を堅持していく方向と明らかに矛盾することになります。
2.人材確保に必要な処遇確保の重要性に関して
貴委員会が「職務の重要性、処遇確保の必要性、他都市の状況なども考慮」することを述べていますが、当然のことです。
地方公務員の給与は、地方公務員法第24条3に「職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない」と規定されています。まずは生活できる水準であること、次に国や他の地方自治体の職員との均衡を考慮することが述べられ、その後に民間給与を考慮するとあります。
今回の市当局の給与大改悪提案は、人事委員会による民間給与との比較しか眼中にないものであり、地方公務員法に照らして違法です。このような他都市と劣る賃金処遇では人材確保は不可能だと言わなければなりません。ましてや人材確保に逆行する処遇改悪を行うために公務員労働者の権利擁護機関としての人事委員会制度が悪用された全国でも初めての事例だと考えます。
次に、幼稚園教員は教員人材確保法の対象ではありませんが、準じた取り扱いとなっています。従って、小・中学校給料表を適用してきたことは当然のことなのです。文部科学省は人材確保法について、「人材確保法は、教員の給与を一般の公務員より優遇することを定め、教員に優れた人材を確保し、もって義務教育水準の維持向上を図ることを目的とする」としています。
また、幼稚園は学校教育法に根拠をもつ教育機関であり、教員は、教育公務員特例法が適用され給特法の対象となっています。そのため時間外勤務手当は支給されておらず、教育職の取り扱いをしています。
処遇確保の必要性は一般論に留まらず、法的根拠を持ったものであり安易に賃下げを行うことは重大な問題を持つものです。
3.幼児教育の重要性を軽視する根拠は存在しない
貴委員会の「報告」には「義務教育をつかさどる教育施設ではないことなどを考慮すると、小学校又は、中学校の教員と職務の種類が同等とまでは評価できないと考える。」としています。
しかし、これは、国の動向(義務化)や世界の就学前教育重視の流れに明らかに逆行するものです。また、「幼児教育の改革のための基本的な考え方」(大阪市教育委員会平成25年9月策定)では、「[大阪市教育振興基本計画]の目標を達成する上で、幼児教育は極めて重要である」としており、その項目には、「(1)効果が生涯にわたる幼児期の教育の可能性を最大限に活かす」を設けています。幼児教育の重要性が指摘される中での、貴委員会の「報告」は重大な認識の誤りが存在しており撤回すべきだと考えます。
また、当局提案には養護教職員の給与について極めて大きな問題があります。養護教職員の採用については、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校ともに同じであるにも関わらず、配置される学校の種類によって大きな賃金格差が生じることになります。配属先が幼稚園だということによって生じる、賃金の不利益・格差は認められるものではありません。
4.人事院勧告制度の経過を歪め、賃金センサスを活用するなど他都市への悪影響が懸念されます
人事院勧告制度は公務員労働者の労働基本権剥奪の「代償措置」であるとされています。
橋下市長は人勧制度を攻撃するとともに「公務員は大企業並みの給料をもらっている」との発言も繰り返し攻撃しています。
私たちはこのような橋下市長のデタラメな主張に与するものではありません。同時に、人事院の調査のあり方を全面的に是認しているものでもありません。それは、民間賃金には正規職員であっても男女間に非常に大きな賃金格差が存在していることです。人事院の調査にはその「差別の現実」が内包されています。国税庁の民間給与実態統計調査(平成26年9月)によると、従業員5000人以上の企業の男性の平均給与が6,614,000円に対して、女性は2,620,000円と半分以下の水準です。このような男女の賃金格差はどの事業所規模では存在しており、男女の賃金格差が基本的に少ない公務員の賃金水準にマイナス影響を与えています。
また、民間の賃金水準において企業規模により大きな賃金格差が存在し、規模が小さいほど賃金水準は落ち込む実態にあることです。人事院は調査対象企業を2006年から100人以上から50人以上に引き下げ、公務員賃金の引下げを行ってきた問題が存在しています。
貴委員会の保育士・幼稚園教員の給与の実態調査においてはこのような問題点とは次元の異なる問題が存在しています。それは、そもそも調査したデータが比較対象として信頼性があるのかどうかということです。民間保育士・幼稚園教員の調査では年齢30歳以上、勤続年数10年以上のデータ数が少数だという状況や本市職員の年齢構成との大きな乖離が存在しています。
このような統計上不完全なデータの実態を糊塗するために職員基本条例で規定された賃金センサスの活用がなされていますが、賃金センサスには任期付職員や日雇い労働者でも常用労働者として調査対象としているなど人事院の民間給与実態調査に代えて活用することには極めて慎重であるべきです。
このような「調査」「報告」内容をもとに保育士・幼稚園教員の賃下げが実施されることになれば、他都市への悪影響は極めて深刻になることは明らかです。
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